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ミヨー :ブラジルの郷愁 Op.67

Milhaud, Darius:Saudades do Brasil Op.67

作品概要

作曲年:1920年 
出版年:1922年 
初出版社:Demets
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:曲集・小品集
総演奏時間:21分00秒

解説 (1)

解説 : 西原 昌樹 (2744文字)

更新日:2020年5月29日
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作品概要

出版年 1922 年

初出版社 E. Demets (のち Max Eschig)

楽器構成 ピアノソロ

総演奏時間 約24分(各曲 1分半~3分)

外交官詩人として知られるポール・クローデル(Paul Claudel, 1868-1955)は1916年11月に駐ブラジルのフランス公使に任命された。1912年にクローデルと出会い親交を結んでいたミヨーは、クローデルに請われ秘書として随行し1917年2月から1918年11月までをブラジルで過ごした。この2年足らずのブラジル滞在が、ミヨーにラテン人としてのアイデンティに目覚めさせ、作風に多大な影響を与えたことは自他共に認めるところである。当時のブラジルの首都リオデジャネイロに拠点を置き、植民地時代の香りを色濃く残す独特の洗練された文化を貪欲に吸収するいっぽう、長い休暇にはクローデルと連れ立って遠くアマゾンの奥地、熱帯の密林にまで分け入り、野生の脅威と神秘に深く耽溺する日々を送った。滞在の終わりに近い1918年8月には、全世界で猛威をふるったスペイン風邪のブラジル上陸にも遭遇した。当時のリオの街を覆った惨状をのちにミヨーは自伝に克明に書き残している。

ブラジルからヨーロッパに戻ってまもなく、ミヨーはブラジルへの断ちがたい思いから《ブラジルの郷愁》を書き、1920年にコペンハーゲンで完成させた。エルネスト・ナザレに代表されるブラジリアン・タンゴやマシーシェなど大衆音楽のリズムを全面的に取り入れた舞曲集である本作は、ミヨーがリオで体得した「街の音楽」の独特の間合いとエッセンスを凝縮させたものである。一般に、ミヨーがブラジルから受けた影響を表すものとして、本作や《屋根の上の牛》《ブラジルの女》《スカラムーシュ》終楽章)を挙げる向きが多いが、いずれも一面的なものに過ぎない点に注意したい。ミヨーにより深く本質的な影響を与えたのはブラジルの原始林と闇に息づく生命の気配であった。それらが幼少時に刻まれた音の記憶と響きあうことで、自身の内から湧き上がる書法を見出し、大規模な劇音楽やカンタータへと結実させていったのである。本作がそれ自体で十分に魅力的であることは疑いを入れないものの、大自然がミヨーに与えた霊感に比べれば、副次的な産物ともいえる。ともあれ「サウダージ」なるポルトガル語は、なつかしさ、あこがれ、慕わしさ、やるせなさなどの混淆であるとも、他言語への置き換えは不可能であるとも言われ、今なおジャンルを越えてブラジル音楽の根幹をなすものとされる。「ブラジルの思い出(想い出)」「ブラジルへの郷愁」などの邦題もある。

12の小品はいずれも4分の2拍子で多くはシンコペーションを伴う舞曲であり、民謡などの借用はなく全てミヨーがオリジナルのメロディを書いた。左右の手で異なる調を奏する(複調)ことを基本とし、そこにさらに別の線が加わって多調が偶発的に生ずることもある。各曲のタイトルはリオの街区や景勝地の名前で、有名なキリスト像の建つコルコヴァードの丘、ポップスやボサノバの舞台にもなったコパカバーナ海岸、イパネマ海岸など、日本人にもなじみのある地名も見え、リオの街並みを想像しながら弾くのも楽しい。初演は、1920年11月、パリのギャラリー・モンテーニュにおける六人組演奏会にてニニーニャ・ヴェロソ=グエラ(Nininha Velloso-Guerra)によりおこなわれた。この初演者については「春」第2集(Op. 66)の拙稿に詳しいので参照されたい。12曲の冒頭に軽快な序曲が加わった管弦楽版(Op. 67b)もある。

各曲の難易度には幅があり、Gavea など演奏至難の曲もあるが、比較的弾きやすい曲も少なくない。ミヨーのピアノ曲の代表作として、演奏家、学習者の別を問わず広く親しんでいただきたい。全曲に挑戦するもよし、自由に抜粋して弾いてみるのもよい。選曲に迷う場合には以下の実例が参考となろう。

ミヨーの自作自演: Ipanema, Sorocaba, Corcovado, Sumare

アルトゥール・ルービンシュタイン: Ipanema, Sumare, Laranjeiras

マルグリット・ロン: Paysandu, Ipanema

アンリエット・ピュイグ=ロジェ: Copacabana, Corcovado, Tijuca, Sumare

ブラジルで交友を持った友人、知人に1曲ずつ献呈されている。

第1曲 Sorocaba ソロカーバ。4分の2拍子。Modéré(中庸に)。Madame Régis de Oliveira への献呈。

第2曲 Botafogo ボタフォーゴ。4分の2拍子。Doucement(甘く)。Oswald Guerra (作曲家)への献呈。

第3曲 Leme レーメ。4分の2拍子。A l’aise(くつろいで)。Nininha Velloso-Guerra (ピアニスト)への献呈。

第4曲 Copacabana コパカバーナ。4分の2拍子。Calme(しずかに)。Godofredo Leao Velloso (作曲家)への献呈。

第5曲 Ipanema イパネマ。4分の2拍子。Nerveux(苛々して)。Arthur Rubinstein (ピアニスト)への献呈。

第6曲 Gavea ガヴェーア。4分の2拍子。Vivement(快速に)。Madame Henrique Oswald (作曲家夫人)への献呈。

第7曲 Corcovado コルコヴァード。4分の2拍子。Tranquille(静かに)。Madame Henri Hoppenot (外交官夫人)への献呈。

第8曲 Tijuca ティジューカ。4分の2拍子。Triste(悲しく)。Ricardo Vines (ピアニスト)への献呈。

第9曲 Sumare スマレー。4分の2拍子。Léger(軽く)。Henri Hoppenot (外交官)への献呈。

第10曲 Paineras パイネーラス。4分の2拍子。Souple(柔らかく)。La Baronne Frachonへの献呈。

第11曲 Laranjeiras ラランジェイラス。4分の2拍子。Alerte(活発に)。Audrey Parr (美術家)への献呈。

第12曲 Paysandu パイサンドゥ。4分の2拍子。Expressif(表情豊かに)。Paul Claudel (外交官・詩人)への献呈。

執筆者: 西原 昌樹

楽章等 (12)

ソロカーバ Op.67-1

総演奏時間:1分30秒 

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ボタフォーゴ Op.67-2

総演奏時間:2分00秒 

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レーメ Op.67-3

総演奏時間:2分00秒 

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コパカバーナ Op.67-4

総演奏時間:2分30秒 

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イパネマ Op.67-5

総演奏時間:2分00秒 

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ガヴェア Op.67-6

総演奏時間:1分30秒 

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コルコヴァード Op.67-7

総演奏時間:1分30秒 

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ティジュカ Op.67-8

総演奏時間:2分00秒 

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スマレー Op.67-9

総演奏時間:2分00秒 

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パイネーラス Op.67-10

総演奏時間:1分00秒 

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ラランジェイラス Op.67-11

総演奏時間:1分30秒 

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パイサンドゥー Op.67-12

総演奏時間:1分30秒 

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