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グラナドス :スペイン民謡による小品集

Granados, Enrique:Piezas sobre cantos populares espanoles

作品概要

楽曲ID:2777
作曲年:1900年 
出版年:1910年 
初出版社:Pujol
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:曲集・小品集
総演奏時間:25分30秒
著作権:パブリック・ドメイン

解説 (1)

執筆者 : 小林 由希絵 (4820文字)

更新日:2019年2月27日
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 スペイン国民楽派を代表する作曲家エンリケ・グラナドスによるピアノ小品曲集。

この曲は〈6 piezas sobre cantos populares espanolas(スペイン民謡による6つの小品)〉と表記されることも多いが、実際には「前奏曲」も含めて、「はるかな思い」、「どんちゃん騒ぎの響き」、「バスク地方の歌」、「東洋風の行進曲」、「サンブラ」、「サパテアード」の計7曲から成る。

 作曲年代は定かではないが、「スペイン国民楽派の祖」と呼ばれるフェリペ・ペドレルの元で作曲を学びはじめた1883年頃には作曲に着手したものと思われる。同時期には、〈オリエンタル〉や〈アンダルーサ〉など彼の名を一躍有名にした曲が収められている〈スペイン舞曲集〉が作曲されており、スペインの民族音楽に題材を得たグラナドスの代表作を次々に書いていた時期の作品といえる。

 この曲集は、実業家エドゥアルド・コンデ氏の義理の娘にあたるセシリア・ゴメス・デ・コンデに献呈。コンデ氏は、ジュアン・バウティスタ・プジョール率いるバルセロナのピアノの名門アカデミア・プジョールで、イサーク・アルベニスやホアキン・マラッツらと共にピアノを学んでいた学生時代から、グラナドスを支援してきた後援者である。音楽の道を志す道半ばで父を失い、経済的に苦しかったグラナドスにとっては、コンデ氏の経済的援助は本当に有り難いものであり、グラナドスが音楽を学び続け、1887年から2年に渡ってパリへ留学することが出来たのも、コンデ氏のサポートなくしては出来なかっただろう。

 コンデ氏の援助のお陰で実現したパリ留学では、モーリス・ラヴェルやビーニェスらを教え子に持つパリ国立音楽院の教授シャルル=ヴィルフレッド・ド・ベリオに付き、ピアノの表現力をさらに磨く傍ら、同郷のイサーク・アルベニスをはじめとするスコラ・カントゥルム(ヴァンサン=ダンディがパリ音楽院の教育理念に対抗して設立した音楽学校)の作曲家たちとも積極的に交流を持ち、次々と時代の最先端の音楽を吸収して行くことができた。

 また、パリ留学中に築いたグラナドスの交友関係は音楽家だけにとどまらず、モン・マルトル地区に暮らす若手の芸術家たちとも深い交流を持った。特に、同郷カタルーニャ出身のフランセスク・ミラリェスとは、絵のモデルとなるなどして親交を深めた。このパリでの芸術家たちとの交流が、のちにグラナドスの最高傑作となる〈ゴイエスカス〉や歌曲集〈トナディーリャス〉を生み出すこととなった。

そういった面からも、グラナドスがスペインを代表する作曲家と鳴り得た成功の背景には、グラナドスに経済的援助を惜しまなかった後援者コンデ氏の存在が大きかったといえる。

 

「前奏曲」…Andante、4分の3拍子。

 小品集の幕開けを彩る「前奏曲」の冒頭を飾るのは、フラメンコギターを彷彿とさせるアルペジオの和音の数々。このアルペジオは、「ラスゲアード」と呼ばれるギターの弦をかき鳴らす奏法を模倣したものであろう。いかにもフラメンコらしい和声進行のモチーフが、次々とリズムを変えて、即興的に変奏されていく。

 15小節間の即興的なカデンツァの部分が終わると、16小節目からはフラメンコのカンテ()を思わせるオクターブのメロディと、ギターの合いの手が交互に繰り返される。

カンテのパートがad lib.で力強く自由に歌い上げたかと思うと、続くギターはピアニッシモで小さい音ながらin tempoにテンポを戻して行くという形式は、フラメンコの故郷アンダルシア地方の音楽によく見られる特徴である。

幾重にも渡ってカンテとギターが互いの会話を楽しむかのように交互に音楽を奏でたのち、35小節目からは、再び冒頭のギターのモチーフがかき鳴らされ、第1曲「はるかな思い」へと橋渡しされていく。

 

第1曲「はるかな思い」…con moto、4分の3拍子、ニ短調。

 原題は、「郷愁」という意味を持つ「アニョランサ(Anoranza)」。その名が示す通り、グラナドスの故郷スペインへの「はるかな郷愁」が曲に込められている。

 冒頭4小節間の序奏の後、前打音の装飾を伴った和音が3拍子のリズムを快活に刻み始める。このパートは、先の「前奏曲」と同様に、フラメンコギターを思わせる。

 続くPoco Allegrettoとなった12小節目のアウフタクトからは、哀愁を帯びたカンテ()のパートが加わる。三連符のリズムを刻む左手の伴奏も相まって、スペイン音楽らしさをより際立たせている。

 26小節目から2小節かけてpoco rall.すると、28小節目からは再び序奏のパートが再現される。39小節目からはカンテ()のテーマがオクターブで奏でられるが、冒頭に登場したものとは違った和声が付けられており、より一層聴く者の郷愁を誘う。グラナドスの作曲手腕が光っている。

 途中、ギターらしいアルペジオのパートを挟みつつ、再度カンテ()のパートから序奏のモチーフへと移り、ギターのリズムを刻みながら終焉を迎える。

 

第2曲「どんちゃん騒ぎの響き」…Allegro、4分の3拍子。

 原題は「Ecos de la parranda」で、直訳すると「パランダの響き」という意味。「パランダ」とは、村のお祭りなどで演奏する楽団のことである。

第1曲も、第2曲も共に、4分の3拍子の曲であるが、第1曲がフラメンコ的な要素を持った曲であったのに対し、第2曲は、スペインの祭りで演奏される「パランダ」の楽団の音楽を題材としている。

 冒頭は、遠くの方から楽団がやってくる音と共に、ラッパの華やかなファンファーレが聴こえてくる。ここは遥か遠くからパランダ楽団がやって来るように、ピアノで小さく奏でてほしい。

祭りの音楽らしい即興的で楽しげなメロディを次から次へと繰り出しながら段々と近づいてきたパランダ楽団のパレードは、74小節目でついに目の前にまで達し、フォルテッシッシモで盛大に祝祭の音楽が繰り広げられる。まさに「どんちゃん騒ぎの響き」といった様相である。

 Tempo Iとなると、テンポは徐々に遅くなり、祭りの楽団のパレードが去って行く。スペインの村々のにぎやかな祭りの一日の光景が、グラナドスの手によって、ピアノ一台で見事に表現されている。

 

第3曲「バスク地方の歌」…Allegro moderato、4分の2拍子、ト長調。

 バスク地方とは、ピレネー山脈を隔ててスペインとフランスにまたがる地方のこと。スペイン側からみると、東北部にあたる。特有の原語を持ち、音楽や美術など芸術分野から、食やスポーツに至るまで、様々な独自の文化を持っている。

 その中でも、「ベルチョラリツァ」と呼ばれる即興的に詩を作り歌う伝統は、バスク地方ならではのものであり、競技会のみならず、友人たちとお酒を飲み交わす時などにも詩が歌われるなど、音楽はバスクの人たちの生活に深く根ざしている。

また、バスクの伝統的な音楽に使われる楽器には、ラパルタやタンボールといった打楽器や、トリキティシャと呼ばれるボタン式アコーディオンの他、3つしか穴がないため片手で演奏出来るチストゥという珍しい縦笛や、牛の角で作ったアルボカという角笛など個性的な民族楽器も多い。

 この曲の主部は、バスク地方伝統の非常に速いテンポのポルカとなっている。32分音符の細かいパッセージが所狭しと駆け巡って行くは大変面白く、これまでの曲にはない新鮮な響きである。

 中間部へと入ると、poco menoとなり、ユニゾンの歌のメロディが即興的に現れる。これは「ベルチョラリツァ」の歌の形式をよく表している。

 

第4曲「東洋風の行進曲」…Allegro moderato、4分の2拍子、ハ短調。

 2小節間の勇ましいファンファーレの序奏ののち、3小節目から行進曲が始まる。「東洋風」というタイトルの示す通り、トルコを思わせるようなオリエンタルな雰囲気の中、マーチのリズムが刻まれていく。

主題が2回繰り返された後、23小節目からは新たなパートに突入する。ここでは、シンバルや太鼓などの打楽器の力強いビートと、どこかユーモラスでエキゾチックな葦笛のメロディが交互に登場し、聴く者の心を楽しませてくれる。再び主題の行進曲が繰り返されると、poco menoとなり、ハ短調からハ長調へと転調し、新たなモチーフが登場する。13小節間のハ長調のモチーフは、やがてハ短調へと転調され奏でられてゆく。

 89小節目からは冒頭の部分が再現され、コーダへ入ると、オリエンタルな雰囲気のフレーズが登場し、マーチのリズムと共にフィナーレを迎える。

 

第5曲「サンブラ」…Loco、4分の3拍子。

 タイトルになっている「サンブラ」とは、グラナダで発達した民族音楽であるフラメンコの舞曲の一つ。本来は2拍子系のリズムのものを差すが、この曲は3拍子の曲として書かれている。

元々フラメンコは、グラナダなどアンダルシア地方に住むジプシー(ロマ)たちの音楽であるが、「サンブラ(Zambra)」という名前はアラビア語で「笛」を意味する「zamra」であるとも言われ、フラメンコがジプシー(ロマ)の音楽のみならず、8〜15世紀にアンダルシア一帯を治めていたイスラム系の国々の影響も受けながら発展していったことが伺い知れる。

 2小節の序奏の部分に登場する16分音符の半音階的フレーズや、3小節目のAndanteから始まる主題に登場する1拍目と3拍目の左手の完全5度の低音(ドローン)、19小節目から4分の2拍子に変わったvivoの部分で奏でられるメリスマ的装飾をあしらった旋法的なフレーズなど、随所にイスラム的なエキゾチックな薫りが漂っている。

 楽譜の冒頭に記されている「Loco」は、オクターブを解除する時の音楽用語でよく使われるイタリア語の「元の位置で」という意味ではなく、スペイン語で「狂ったように、夢中に」という意味である。ジプシー(ロマ)たちが、一心不乱にフラメンコを踊るように、熱く演奏してほしい。

 

第6曲「サパテアード」…Allegro、8分の6拍子、ニ長調。

 タイトルにある「サパテアード」とは、主にアンダルシア地方で発展した8分の6拍子系のフラメンコの舞曲のうちの一つ。足のステップを踏む際に、靴のかかとや、つま先を大きく鳴らしてリズムを刻むのが特徴で、ここから派生して、かかとやつま先を踏み鳴らしてリズムを刻むことを「サパテアード」と呼ぶようになった。

 グラナドスと同じスペイン出身の作曲家ホアキン・トゥリーナも、〈3つのアンダルシア舞曲〉Op.8の第3曲に同名の「サパテアード」というタイトルの曲を書いている。

 この曲は、「サパテアード(Zapateado)」と「スケルツォ(Scherzo)」の部分のA-B-A'の三部形式として書かれている。

 「サパテアード」の部分は、軽快でダンサブルな8分の6拍子のリズムの序奏から始まる。20小節書けてピアニッシモからフォルテッシモまで徐々にクレッシェンドしていくと、21小節目からアンダルシアらしい陽気なメロディが顔をのぞかせる。この旋律は左手で奏でられ、右手はオクターブでサパテアードのリズムを刻んでいるのが面白い。

 105小節目からは、「スケルツォ」のパートに入る。ここからは、poco menoとなり、ニ長調からニ短調へと転調していく。符点の付いたリズムや、臨時記号の付いた旋法的でエキゾチックな16分音符の旋律など、様々な表情の音楽が盛り込まれている。

 183小節目からは再び「サパテアード」のパートに戻り、コーダへ入るとcresc. molto e accel.となり、「スケルツォ」の旋法的な16分音符のフレーズがリフレインしながら幕を閉じる。

執筆者: 小林 由希絵

楽章等 (7)

前奏曲

総演奏時間:2分00秒 

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はるかな思い

総演奏時間:2分50秒 

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どんちゃん騒ぎの響き

総演奏時間:3分50秒 

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バスク地方の歌

総演奏時間:3分30秒 

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東洋風の行進曲

総演奏時間:3分30秒 

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サンブラ

総演奏時間:5分20秒 

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サパテアード

総演奏時間:4分30秒 

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