1777年1月、ザルツブルクにて作曲された。初期のピアノ協奏曲の中で一際高い評価を受けている作品である。
愛称の《ジュノム》とは、この作品を注文したとされるフランスの女性ピアニストの名に由来するのだが、彼女の正しい名はヴィクトワール・ジュナミという。彼女の実力を反映したと考えられる《ジュノム》協奏曲は、高度な技術を要求し、またいくつかの独創的な試みを明らかにしている。そのひとつとして挙げられるのは、当時の協奏曲としては異例にも、第1楽章冒頭すぐに独奏ピアノが登場することである。モーツァルト自身がこの手法を用いたのは1度きりであったが、後のベートーヴェンに影響を与えたと考えられる。
この作品にはモーツァルトによって数多くのカデンツァが残されている。第1、2楽章に2つずつのカデンツァ、そして第3楽章に6つのアインガングである。これは演奏回数の多さを表しているといえよう。
第1楽章:アレグロ、変ホ長調、4/4拍子。協奏的ソナタ形式。管弦楽と独奏ピアノの掛け合いから始まるというのは、当時のピアノ協奏曲を聴きなれた聴衆の意表をついたことだろう。楽章は全体的にテンポ良く進み、ピアノの技巧的な華やかさも引き立っている。
第2楽章:アンダンティーノ、ハ短調、3/4拍子。21歳の青年が書いたとは思えないほどの寂寥感を掻き立てる楽章。モーツァルトのピアノ協奏曲の中間楽章では始めての短調である。
第3楽章:ロンド-プレスト、変ホ長調、2/2拍子。ロンド形式。蜂が飛び回るようなロンド主題で始まる。モーツァルトのもうひとつの試みとして、中間部にメヌエットが挿入されていることを挙げるべきであろう。ジュナミ夫人の父親であり舞踏家のノヴェールを意識したのではないかとも言われる。