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シベリウス :キュリッキ-3つの抒情的小品 Op.41

Sibelius, Jean:Kyllikki - 3 Lyric pieces Op.41

作品概要

作曲年:1904年 
出版年:1906年 
初出版社:Breitkopf und Härtel
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:曲集・小品集
総演奏時間:11分00秒

解説 (1)

執筆者 : 小林 由希絵 (2651文字)

更新日:2018年3月12日
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フィンランドの国民的作曲家J.シベリウスが1904年に作曲したピアノ作品。 曲のタイトルになっている「キュリッキ」とは、フィンランドの民族的叙情詩「カレワラ」に登場する高貴な血を引くうら若き乙女の名前のこと。  シベリウスは、〈キュリッキ〉をはじめ、彼の名を一躍有名にした出世作の〈クレルヴォ交響曲〉op.7や〈レンミンカイネン組曲〉op.22、〈交響的幻想曲「ポポヨラの娘」〉op.49など、「カレワラ」題材にした作品を数多く書き残している。(その内、ピアノ独奏曲として書かれた唯一の作品が〈キュリッキ〉である。) 「カレワラ」は、シベリウスの音楽を語る上で欠かす事のできないものであるため、ここで少し触れておきたい。  「カレワラ」とは、フィンランドに伝わる伝承・説話などを、フィンランド人の医者エリアス・リョンロートが採集・編纂して、1835年に出版した2巻32章にもおよぶ壮大な民族的叙情詩である。このような民族的叙情詩が作られた背景には、フィンランドが歩んで来た長い隣国からの侵略との戦いの歴史がある。  フィンランドは、1155年から西側の国境を接するスウェーデンからの支配を受ける。その支配は実に654年もの長きに渡った。1809年にスウェーデンの支配が終わると、フィンランドは東側の国境を接する大国ロシアからの支配を受けることとなる。ロシア帝国の支配は厳しいもので、フィンランド語ではなくロシア語を強制するなどフィンランド国民からの反発は根強いものであった。こうしたロシアからの占領は、ロシア革命の混乱に乗じて1917年にフィンランド独立を宣言するまでの100年余りにおよび、フィンランドの人は長くロシアからの圧政に苦しんで来たのだった。  こうした度重なる隣国からの支配を受け続ける中で、19世紀後半から高まって来た民族解放運動の波は北欧フィンランドにも巻き起こり、こうしたナショナリズムの高まりから生まれたのが、フィンランドに古くから伝わる伝承・説話などをまとめた「カレワラ」だったのである。  「カレワラ」とは、フィンランド語で「英雄たちの地」という意味であるが、雄大な構想の英雄物語は隣国からの圧政に絶えず苦しめられて来たフィンランドの人たちにとっての民族意識の象徴となり、ロシアからの独立運動の大きな原動力となっていった。  時を同じくして19世紀後半のヨーロッパの音楽界では、民族主義に触発されたムソルグスキーなどをはじめとするロシア5人組や、東欧のドヴォルザーク、スメタナらの国民楽派の作曲家たちが活躍し、民族的な題材を用いた音楽を次々に生み出していた。 このような民族主義の時代の流れの中で、シベリウスはフィンランド人作曲家としてのルーツを求め、「カレワラ」を題材にした作品をいくつも作り出していったのである。  〈キュリッキ〉は、「カレワラ」第11章の話を元に作られている。 ◯第1曲 Largamente-Allegro、変ニ長調。  サーリ島に住む気高い娘キュリッキは、レンミンカイネンという青年から熱烈な求婚を受ける。このレンミンカイネンという男は、男前で、武術や馬術に大変優れている一方で、身勝手で女に弱いという性格の持ち主であった。キュリッキ以外の島の娘たちは皆レンミンカイネンになびいていったが、「島の花」と謳われたキュリッキだけは彼になびかなかった。  Largamenteの4小節の序奏のあと、Allegroで「レンミンカイネンのテーマ」が登場する。徐々にクレッシェンドしていき、音楽が激しさを増してくると、22小節目から「キュリッキのテーマ」が姿を見せる。猛々しい男性のレンミンカイネンと違い、麗しい乙女のキュリッキの旋律は穏やかで美しい面持ちで、両者のテーマが実に対照的に描写されている。 全体的には長調で書かれながらも、暗く重い音楽が多くを占め、2人の気持ちがうかがえる。 ◯第2曲 Andante、変ロ長調。  なかなか自分になびかないキュリッキに業を煮やしたレンミンカイネンは、島の他の娘たちと一緒に輪の中に入って楽しそうに踊っていたキュリッキを無理矢理に誘拐していく。 第2曲は、連れさらわれたキュリッキの悲哀を歌ったエレジー(悲歌)となっている。 主題部−中間部−再現部の3つの構成で書かれており、あまり構成にとらわれずに自由に書かれているこの作品の中で、比較的しっかりした構成で作られている。 主題部のテーマはゆったりとした悲しいメロディで、キュリッキの深い悲しみを切々と歌い上げている。中間部では曲調が激しくなり、レンミンカイネンへのキュリッキの憤りを劇的に描き出している。再現部では、低音のシンコペーションが印象的に登場し、まるでキュリッキの大粒の涙を表現しているかのようだ。 ◯第3曲 Commodo、変ロ長調。舞曲風。  結婚をかたくなに拒否するキュリッキに、レンミンカイネンは必死に自分との結婚を懇願する。レンミンカイネンの再三の求婚に根負けしたキュリッキは、仕方なくレンミンカイネンとの結婚を承諾した。ようやく結婚を決めた2人は、互いに一つずつ約束を出し合うことにした。その約束の中身とは、レンミンカイネンは戦争に行かないこと、キュリッキは踊りを踊りに行かないことであった。しかしこの約束も長くは続かず、踊ることが何より大好きなキュリッキは、この約束を破って踊りを踊りに出かけてしまい、約束を破ってしまった。キュリッキに激怒したレンミンカイネンは、キュリッキを捨てて出て行った。  舞曲風に書かれた第3曲は、踊ることを禁じられたキュリッキの踊りへの強い憧れを表していると言われている。「カレワラ」に描かれているキュリッキとレンミンカイネンとの決別のシーンまではこの曲の中では描かれておらず、シベリウス特有の透き通るような美しい音が響き渡り、曲の幕を閉じる。  シベリウスは〈キュリッキ〉と同じ「カレワラ」第11章を題材にした作品として、〈レンミンカイネン組曲〉op.22の 第1曲に「レンミンカイネンとサーリの乙女たち」という曲を書いている。タイトルからもわかるように、〈レンミンカイネン組曲〉では、キュリッキではなく、レンミンカイネンを主役に据えて物語を描き出している。同じ題材で二度も作品を作り上げたことからも、シベリウスがいかに「カレワラ」のキュリッキとレンミンカイネンの物語に対して思い入れが深かったかが伺い知れる。

執筆者: 小林 由希絵

楽章等 (3)

ラルガメンテ(アレグロ) Op.41-1

総演奏時間:3分00秒 

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アンダンティーノ Op.41-2

総演奏時間:4分30秒 

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コモド Op.41-3

総演奏時間:3分30秒 

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