1911年から翌年にかけて作曲されたこの作品は、前作の詩曲との間に7年もの歳月がある。しかし、この間には《ピアノ・ソナタ 第5番》や《法悦の詩》、《プロメテウス――火の詩》等、他の曲種における円熟した作品が作曲されている。また、スクリャービンの人付き合いは、音楽家よりもむしろロシア象徴主義の立場をとる詩人や評論家との間にみられるようになり、1908年には神智学協会に入会している。
この曲は、単一楽章のソナタ形式の構成をとっている。冒頭を形づくる神秘和音「変二音-ヘ音-ト音-変ロ音-変ハ音-重変ホ音-変ホ音」がほぼ前曲を通じて用いられる。この曲では、スクリャービンの作品における「神秘」を垣間見ることのできるものとして、フランス語による細やかな表記が挙げられる。以下に、順を追ってその翻訳を掲載する。
「気まぐれな優雅さと共に」→「軽やかに、活き活きと」→「動く影のごとく」→「はっきりとしないつぶやきのごとく」→「眠っている官能の喜びと共に」→「すきとおった、真珠のように」→「憔悴して気だるく」→「夢の中であるかのごとく」→「次第に情熱的に」→「突如ものうげに」→「澄みきって」→「魅惑的に」→「生成され始めた情熱と共に」→「甘美に、ものうげに」→「柔らかく、澄みきって」