作曲者がこれら2つの小品に初めて言及したのは、グラズノーフへ送られた1907年の7月付の電報においてである。当時ニューヨークにいた彼は、「6つの小品を送るので、600ルーブルを送ってください」と打電した。この「6つの小品」とは、《4つの小品》作品56と本作のことであった。しかし、作品が完成していなかったためか、あるいは多忙のためか、この約束は実現されなかった。「6つの小品」はローザンヌからベリャーエフ出版社へ送られた、「2月までに6つのピアノ小品を送ります」という1907年12月の書簡に再び現れる。こちらの約束は果たされ、「6つの小品」は作品56、57として同年に出版された。スクリャービンはこれらの作品を好んでいたのか、リサイタルでしばしば演奏した。
■第1曲:〈欲望 Désir〉
この楽曲は第1〜5小節と第6〜13小節、という2つの部分に分かれており、後者の冒頭の旋律は、前者を完全五度上に移し替えたものである。冒頭から繰り返される、あたかも何かをためらっているかのように途切れがちな上行旋律、そしてピアニッシモの指示が曲全体を支配している。
1910年の《プロメテ》に現れる、いわゆる「神秘和音」の完成まで、スクリャービンの作品からは調性感が徐々になくなっていく。作品57の2曲もその流れの中にある作品で、調性は存在しているものの、和声外の付加音によって、巧みに希薄なものにされている。例えばこの曲では、中間部にC-E-Gというハ長調の三和音がたびたび現れ、結尾の再下声にはG-Cというハ長調の全終止が形作られている。しかしながらスクリャービンはそこに、F#やE♭などの和声外音を差し挟み、調性的な響きを曖昧にしている。
■第2曲:〈舞い踊る愛撫Caresse dansée〉
回帰部分が短い結尾へと変化した三部形式と解釈できる。〈欲望〉では上行旋律が支配していたのに対し、この曲の主要部分では下行旋律、そして半音階で下行する和声が支配的である。「舞い踊る」という題名の通り、主要部分にも中間部分にも、明確に3拍子の律動感が保たれている。前曲よりも調性感がはっきりしており、第15〜16小節や末尾には、はっきりとハ長調のカデンツが現れている。
近年ムーズィカ社とユルゲンソーン社から刊行された批判校訂版の校訂報告によると、1906年の始めにはベリャーエフ出版局に存在したスクリャービンの作品リストに、管弦楽曲として《舞い踊る愛撫》という作品が存在しているという。また、その他の状況証拠からも、その管弦楽曲がこの作品57の第2曲の管弦楽版である可能性があると指摘されている。もしそれが正しいのであれば、〈欲望〉よりもはっきりとしたこの曲の調性感も、その成立時期に由来する、ということになるだろう。