ベートーヴェン :11のバガテル 第5番 Op.119-5 ハ短調
Beethoven, Ludwig van:11 Bagatellen Nr.5 c-moll Op.119-5
解説 : 鐵 百合奈 (365文字)
Risoluto 決然と
二部形式+コーダ。塊を打ち付けるような左手の和音連打の上で、苛烈な短前打音をともなう右手の分散和音が、付点のリズムで鋭く奏される。フレーズの切り替わる部分左手の合いの手の16分音符も、刃を薙ぐ(なぐ)ような激しさを持つ。コーダは、フレーズ末尾の素材(第8小節目)を、まるで何かを言い切る様子で、緊張感にみなぎった休符をはさんで三度繰り返した後、堰を切るように大きな音程の跳躍を含む楽想をsfで厳しさを増しながら駆け抜ける。
ベートーヴェンのハ短調作品には、このような激烈な情動をあらわした曲が多く、この第5番もそのひとつである。この頃書かれた初期のハ短調作品には、ピアノ・ソナタ第5番ハ短調10-1(1798年)、ピアノ・ソナタ第8番ハ短調「悲愴」作品13(1799年)などがあり、共通する性格を持っている。
演奏のヒント : 大井 和郎 (926文字)
学習者の皆さんは、この曲を仕上げる前に、ベートーヴェンのc-moll(ハ短調)に関して調べてみましょう。c-mollという調は、ベートーヴェンにとってはとても特別な調であったことがわかると思います。ソナタのOp10-1、Op111、ピアノトリオOp1-3、交響曲op67等を聴いてみて下さい。大変エネルギッシュでパワフルであることがわかると思います。
このパガテルも例外ではありません。終始テンポは、2拍子を感じながら、コンスタントにリズミカルに速いテンポで力強く進んで下さい。
ここから先は筆者の主観になります。9小節目を例に取ります。1拍目裏拍の右手のメロディーのCと、2拍目の右手のメロディー表拍のCはト音記号の低い位置に書かれています。11小節目も同じです。これら、ト音記号の低い位置に書かれているメロディーは、左手の伴奏と同じ場所にあるため、メロディー音としてハッキリ聴き取れない恐れがあります。筆者であれば、例えオクターブ下のメロディーであったとしてもハッキリ聴かせると思います。
ベートーヴェンはもしかしたら、これら、9小節目のCや、11小節目のGを、和音のメンバーであることを強調したく、このように書いたのかもしれません。つまり、9小節目にこのCが無ければ、借用和音のvii/iv になりますが、Cが入ることにより、V7/ivになります。実際左手の和音の最後にはCが書いてありますので、右手のCが無くなったとしても、左手でCを引き続ける事で、V7/ivとしたかったのかもしれません。それでは何故1拍目表拍からCを書かなかったのかという疑問は残ります。
いずれにせよ、右手のメロディー音扱いになっておりますので、筆者であれば強調すると思います。
もう1点、16~18小節間、コンスタントに続いたリズムがこの小節間では、2拍目が消えてしまいます。動きが止まったという認識で良いと思います。この16~18小節間は終止形として扱ってかまいませんので、もしかしたらここでテンポを徐々に落としていくのも良いと思います。そして、19小節目2拍目裏拍から再び、リズムが復活しますね。ここでin tempoに戻して、全ての雰囲気を再び力強く進む音楽に戻して下さい。
[CBJ 2020]ベートーヴェン:11のバガテル 作品119-5
【ピティナ課題曲2023(C級)概要欄に解説あり】11のバガテル 第5番 Op.119-5
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