ベートーヴェン : ピアノ三重奏曲のアレグレット(第8番) 変ロ長調 WoO 39
Beethoven, Ludwig van : Klaviertrio Nr.7 B-Dur WoO 39
作品概要
作曲年:1812年
出版年:1830年
初出版社:Dunst, Frankfurt am Main
楽器編成:室内楽
ジャンル:種々の作品
総演奏時間:6分00秒
著作権:パブリック・ドメイン
解説 (2)
執筆者 : ピティナ・ピアノ曲事典編集部
(377 文字)
更新日:2018年3月12日
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執筆者 : ピティナ・ピアノ曲事典編集部 (377 文字)
ベートーヴェンの死後の1830年に出版された作品で、Werk ohne Opuszahl(作品番号なしの作品)に分類される。「ウィーン1812年6月26日。私の小さな友人、マクセ・ブレンターノに、ピアノを弾く励ましに。l v ベートーヴェン」と自筆稿(ベートーヴェンハウス:ボン)のタイトルに書かれている。マクセとはマクシミリアーネの愛称で、ブレンターノ家の当時10歳の少女にこの作品は献呈されたのであった。ピアノが上手であった彼女のために書いたと推定される。一楽章から成っていて、比較的規模の小さな作品である。
8分の6拍子。ロンド形式。8分音符の順次進行のテーマを基本和声が刻む上品な出だしが何度も回帰する。近親調にしか転調せず、低音を用いることもなく、終始平穏で優雅な調べは曲全体に気高さを与えている。ヴァイオリンとチェロ、ピアノの掛け合いが美しい。
解説 : 丸山 瑶子
(856 文字)
更新日:2025年2月4日
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解説 : 丸山 瑶子 (856 文字)
「不滅の恋人への手紙」と呼ばれるベートーヴェンのラブレターらしき書は、その宛先は誰かと後世の盛んな議論を巻き起こした。ベートーヴェンが恋文を書いたのは1826年、ボヘミア湯治旅行の道中である。
なぜこのささやかで他のベートーヴェンの三重奏曲の重厚さとは比較できない作品が、熱烈な思慕の相手と想像される「不滅の恋人」と関係するのか——関係を疑わない方が無理である。何人かの女性の名が挙げられた中で、「恋人」の最有力候補はアントーニエ・ブレンターノ。WoO39を献呈されたのも女性だが、それはアントーニエの娘、マキシミリアーネなのだ。彼女の名は1812年6月26日の日付とともに、WoO 39の自筆譜上にしたためられただけでなく、ベートーヴェンは「私の小さな友達マキセ・ブレンターノのために、彼女がピアノを弾くときの励ましに」という献辞をつけて楽譜を贈った。そしてベートーヴェンの旅行はこの直後なのである。
ベートーヴェンは有名な肖像画からすると気難しくて物騒な印象を受けるかもしれないが、彼の書簡などを見れば、心優しく繊細な面もしばしば見られる。本作品も然り。自筆のピアノ・パートには作曲家による指遣いが見られるが、これは思い人の娘に対する特別な気遣いではないだろうか。ピアノ・パートに極端に広い音程の和音や跳躍が少ないのも、数え歳10歳の少女が小さな手で弾きやすいように、と思ったのかもしれない。
作品は単一楽章でソナタ形式の典型に則しており、短い展開部も既存素材の断片が並ぶシンプルな作りである。楽曲の規模や分かりやすさも、子供の演奏に適する形態を選んだのではないか、と想像させる。しかしコーダが下属調で始まるのは耳を惹きつけるし、このコーダの規模が提示部、展開部、再現部の全てに勝るあたりも、18世紀末のソナタ形式の標準にはもはやとどまらないという点で、ベートーヴェンの他の意欲作と同じ。また、コーダでは主題の旋律変奏や動機模倣など曲中で最も充実した素材展開が行われ、規模だけでなく内容も濃い仕立てになっている。