作品概要
解説 (2)
総説 : 舘 亜里沙
(512 文字)
更新日:2018年3月12日
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総説 : 舘 亜里沙 (512 文字)
未完成の《ヴィオラ協奏曲》Sz120とともに、バルトークの最後の創作であり、最晩年の1945年7月~8月を中心に作曲された。《ヴィオラ協奏曲》が草稿段階だったのに対してこの《ピアノ協奏曲第3番》は最後の17小節の略記を残してほぼ完成しており、弟子のティボール・シェルリー Tibor Serlyによって終止線が引かれた(草稿に留まった《ヴィオラ協奏曲》もこのシェルリーが補筆完成させ、現在ではヴィオリスト達のレパートリーの一つとなっている)。 1940年にアメリカへ移住したバルトークの晩年は、しばしば「悲劇的であった」と言われ、実際、彼は収入面・健康面のどちらにも恵まれない状態であった。しかしながらこの《ピアノ協奏曲》は、そのような彼の現実を感じさせないような、軽やかで澄んだ響きと、時おり爆発的と言えるほどの情熱的な響きに満ちている。バルトークは当初この作品を、妻ディッタ・パーストリ=バルトークに捧げるつもりであった。だが初演は1946年に、バルトークの弟子であったピアニストであるジェルジ・シャーンドル György Sándorが務めており、ディッタ夫人は1960年代に入ってようやくこの曲の録音を残している。
楽曲分析 : 舘 亜里沙
(834 文字)
更新日:2018年3月12日
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楽曲分析 : 舘 亜里沙 (834 文字)
[第1楽章]アレグレット Allegretto 3/4拍子、ソナタ形式、ホ調。提示部の終わりはホルンのソロによって、再現部の終わり(楽章全体の終止)はフルートソロによって告げられるなど、非常に明確な形式的特徴を持つ。その一方で、提示部ではユニゾンだった第一主題が再現部ではポリフォニックになるなど、ソナタ形式という枠が最大限に活かされている。調号は用いられず、旋律の基音が移ろってゆくことで転調のような音響の変化がもたらされているが、いわゆる全音階の導音(E音に対するD♯音など)は回避されている。
[第2楽章]アダージョ・レリジオーソ Adagio religioso 4/4拍子、ハ長調。対照的な中間部を持つ三部形式。AおよびA'部分は明確なハ長調で、宗教的な性格を帯びている。A部分ではピアノパートにあったコラール風の和音の連なりは、A'部分ではオーケストラに明け渡され、ピアノパートはフーガを奏でる。B部分は調が定まらない上、ピアノおよび管楽器による装飾的な音型が目立つ。ここで現れるフルートの音型は、バルトークがノースカロライナ州で聴いたワキアカトウヒチョウの鳴き声を模倣したものであったと、息子ペーテル宛の手紙等から判明している。
[第3楽章]アレグロ・ヴィヴァーチェ Allegro Vivace 3/8拍子、自由なロンド形式、ホ調。3拍子の性急なロンドであり、シンコペーションのリズムが際立つロンド主題と、旋律的な挿入句が対比されている。多くのロンド楽章はA-B-A-C-A-B-Aの形式を取るが、この楽章は挿入句が毎度異なるA-B-A-C-A-D-Aの形を取っている。B部分はC♯音を基音にしたフーガとなっており、ピアノのソロからトゥッティへと発展する。C部分はその中でさらに3部形式となっており、B♭音を基音とした牧歌風の旋律が曲調を和らげる。D部分は非常に短く、独立した旋律線を持つというよりは最後のロンド主題を導くコーダ的な役割を担っている。