現存する最古かつ最重要の資料(J. H. バッハによる筆写パート譜、1724-27年頃作成)には、イタリア語で『協奏的チェンバロとヴァイオリン・ソロのための6つのソナタ、ヴィオラ・ダ・ガンバの低音部付』と題されている。ここに収められた6つの作品は作曲の時期が必ずしも同時ではなく、主にケーテン時代としても、古いものではヴァイマル時代に遡り(第2および6番)、またライプツィヒで一旦まとめられたのちにも1740年代半ばまで改訂が続けられたことが判っている。しかし形式や様式の上では一貫性がある。すなわち、少なくとも第1番から5番までは緩-急-緩-急の4楽章による教会ソナタ形式を持つ。また、全6曲を通じて、チェンバロはヴァイオリンの和声的な伴奏ではなく、その左右の手がそれぞれ独立した声部となり、対位法的に展開する。タイトルの「協奏的チェンバロ」とはつまり、通奏低音的ではない、という意味である。ヴィオラ・ダ・ガンバはおそらくチェンバロの左手をなぞって演奏したと考えられる。こうした書法が特に顕著ないくつかの楽章については、何らかのトリオ・ソナタの編曲とみる説もある。
このなかで、第6番だけは他の5曲とは異なった楽章構成をなす。急-緩-急-緩-急の5楽章のうち、第2-3楽章と第4-5楽章の間は完全終止を置かず、副縦線のみで緩やかに繋がっている。従って第3楽章を仲介として、第1-3楽章と第3-5楽章の2つのまとまりが接合されているとみることができる。
第1楽章は明朗闊達なトリオ・ソナタである。音階による走句や分散和音の模続進行など、イタリア風の常套句が散りばめられており、つねにどこからか聞こえてくる8分音符の推進力によって、きわめて躍動感のある冒頭楽章となっている。
第2楽章は平行短調で雰囲気が一転する。ヴァイオリンとチェンバロ高声部の愁いに満ちた対話で始まるが、後半でそれまで淡々と歩みを進めていたチェンバロ低声部が対話に加わり、三者が対位法的に絡み合う。最後は半終止のまま、対話の結末は保留される。
第3楽章はこれを受けてホ短調の主和音で開始するが、チェンバロの独奏となる。おおむね2声だが、一時的に3声となって上2声が対話する部分が多い。形式の上では3部分に分かれ、反復記号のあとを平行長調で開始するが、ここは2声部が維持され、対話よりも走句と8分音符による和声土台にほぼ役割分担して進む。やがて冒頭主題が回帰し、再び上2声の対話が始まる。このように見ると、第3楽章全体はのちの(狭義での)ソナタ形式そのものである。
第4楽章ではヴァイオリンが戻ってくる。細かなリズムの変奏とさまざまな音価でのシンコペーションが3声部で組み合わされ、半音階進行や溜息動機も加えて、落ち着くところのない不安と嘆きの雰囲気が表現されている。終結部では調的な目標がぼかされたまま、さりげなく d-fis の長三和音、すなわちト短調の属和音上に半終止する。
終楽章は軽快なジーグで、冒頭楽章の躍動感が戻ってくる。組曲の終楽章の場合と同様に、全体は対位法的に展開する。が、舞曲とは異なり3部分から成り、第3セクションは冒頭セクションのほぼ完全な再現、すなわちダ・カーポ形式のような形式である。ジーグのリズムを持つ主題は全編にわたって聞こえてくるが、中間部では特に断片的にのみ提示され完全な解決を見ない。そのため、第3セクションの主題回帰が喜びに満ちた効果的なものになる。
なお、第6番は作曲期間が最も長く、ヴァイマル時代からライプツィヒでの最終稿までに2回の大幅な改訂が行なわれた。特に第2稿で追加され、第3稿で削除された2つの楽章は、『クラヴィーア練習曲集第1巻』、いわゆる《パルティータ》の第6番第3および6楽章に姿を変えて用いられた。