1920年代、ダダイズムに傾倒していた時期のシュルホフが残した言葉は自身の音楽に対する批評として、その立ち位置と在り方を明確に示唆している。
「私は今まで一度たりとて、同時代人のために作曲をしたことも演奏をしたこともない。彼らに
抗うべく作曲し、演奏してきたのだ」
「音楽とは精神の娯楽ではなく、何をおいても身体の快楽であるべきだ」
故国に戻り、より活動を先鋭化していく前年にベルリンにて発表されたこのピアノ協奏曲「ジャズ風に alla Jazz」にはこうした気概が満ちているのが窺える。
まずソロ楽器の在り方がいわゆる「協奏曲」と毛色が異なることに気付かされる。次々と新たな楽想がピアノから繰り出され、オーケストラとの共生は規範に基づいたものではなく、かなりフレキシブルである。ただ、いわゆるジャズのビッグバンドふうではなく、新古典主義的なニュアンスが強い。
第一楽章:Molto sostenuto-Alla marcia maestoso 上昇と下降を繰り返すピアノをバックに不穏なサウンドスケープがつくられる。ピアノがクレッシェンドしながら下降するのを合図にショスタコーヴィチを思わせるかのようなスケールの大きなオーケストラが始まる。
静かに潜行する第二楽章Sostenuto-Allegroalla Jazz-Subito sostenuto,ma alla breve 終盤、高音部でピアノがざわめき始め、
そのまま第三楽章Alla Zingaresca-Tempo primoへ。享楽と狂騒が断片的にコラージュされる。中間部に退廃感に満ちたジプシー風のヴァイオリンが挟まれることで、フィナーレの熾烈が際立っている。