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ドヴォルザーク(ドボルザーク) :スラヴ舞曲集 第2集 Op.72

Dvořák, Antonin:Slavonic dances Op.72

作品概要

作曲年:1886年 
出版年:1886年 
初出版社:ベルリン
楽器編成:ピアノ合奏曲 
ジャンル:曲集・小品集
総演奏時間:37分00秒

解説 (1)

執筆者 : 小林 由希絵 (5445文字)

更新日:2018年3月12日
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〈スラヴ舞曲集〉は、チェコ国民楽派を代表する作曲家アントニン・ドヴォルザークの出世作。 1878年に出版された第1集(Op.46,B83)と、1886年に出版された第2集(Op.72.B147)の2つがあり、それぞれ全8曲から成る。  〈スラヴ舞曲集〉の出版までの道のりは、ブラームスとの出逢いが大きく関わっている。  オーストリア・ハンガリー二重帝国は、優れた音楽家を支援するための国家奨学金制度を1874年から開始し、まだ駆け出しの作曲家であったドヴォルザークは、この国家奨学金の審査に〈交響曲第3番〉や〈交響曲第4番〉など数曲を提出した。ドヴォルザークの作品は審査員を務めていたブラームスの目に留まり、ドヴォルザークに才能を見出したブラームスは以降生涯に渡ってドヴォルザークを支援してゆくこととなる。 ブラームスは当時ヨーロッパ中で大ブームを巻き起こした〈ハンガリー舞曲集〉を出版したベルリンの楽譜出版会社ジムロック社を紹介した。ジムロック社はブラームスの〈ハンガリー舞曲集〉の大ブームを受けて、ドヴォルザークにも民謡を題材にしたピアノ連弾の舞曲集の作曲を依頼し、ドヴォルザークはジムロック社の期待に応えるべく、スラヴの民族舞曲を題材にした作品の作曲に着手した。  こうして出来上がった全8曲の〈スラヴ舞曲集第1集〉は1878年にジムロック社から出版されるやいなや、瞬く間にヨーロッパ中で大ヒットを飛ばし、その人気はベルリン国民新聞に「神々しい、この世ならぬ自然らしさ」と絶賛されるほど。このブームに乗って、ピアノ連弾版のみならず、管弦楽版も作られ出版された。  ジムロック社は〈スラヴ舞曲集第1集〉の大成功を受けて、ドヴォルザークに続編の作曲を熱望したが、この曲の大成功を期に人気作曲家の仲間入りを果たしたドヴォルザークは〈ピアノ三重奏曲ヘ短調〉や〈ヴァイオリン協奏曲〉、〈交響曲第6番〉や〈交響曲第7番〉など数々の大作を抱えており、また前作を超える作品を書く難しさもあり、当初は続編の作曲にはあまり乗り気ではなかったという。しかし、1886年の6月に突如として創作意欲がわき上がり、1ヶ月という短い期間の間に8曲ものピアノ連弾曲を書き上げたのだった。  タイトルにもなっている「スラヴ」とは、現在のロシア、ウクライナからポーランド、チェコ、スロヴァキア、クロアチア、セルビアなど東欧から中央ヨーロッパにかけての広い地域をさす。  第1集では〈スラヴ舞曲〉と曲名に銘打っているものの、主にドヴォルザークの生まれ故郷であるチェコのボヘミア地方の代表的な舞曲であるフリアントやソウセツカー、スコチナーなどが取り上げられているのに対し、第2集ではボヘミアの舞曲は少数にとどめ、広く他のスラヴ地域の舞曲を取り上げている。  ドヴォルザークもブラームスも共に、同じ民族音楽を題材にしたピアノ連弾作品を作曲しているが、ブラームスの〈ハンガリー舞曲集〉は民族音楽を採譜し編曲したものである一方、ドヴォルザークの〈スラヴ舞曲集〉は民族音楽を題材としつつ、民族音楽の性格と特徴を取り入れた音楽を新たに作曲するというスタイルを取っている。  それでは各曲について詳しくみていこう。 ■第1番 Molto vivace、4分の2拍子、ロ長調。複合三部形式。 舞曲の形式は、スロヴァキアの民族舞曲であるオドメゼックで書かれている。スロヴァキアの民謡というとあまり馴染みがないように思われるかもしれないが、〈おお、牧場はみどり〉や〈ぶんぶんぶん〉、〈山のポルカ〉など、日本でも親しまれている旋律が数多くある。  第1部は、付点8分音符と16分音符が特徴的な快活な曲想。数小節ごとに音のディナーミクが目まぐるしく変化し、曲の冒頭から目が離せない。歓喜にあふれ、明るく華やかな音楽も第2部が近づいてくると、次第に音も小さくなり、リタルダンドしてゆく。 第2部に入ると、ロ長調からニ長調へ転調し、優しく甘美で抒情的なメロディが次々に登場し、第1部に比べてテンポも音量も落ち着いた印象である。第2部の終わりには、第1部とは対照的に徐々に音楽がクレッシェンドしてゆき、2小節間のフォルテッシモを頂点にして第3部に突入するというドラマチックな展開である。 第3部では、テンポも冒頭のMolto vivaceに戻り、第1部の主題がさらに華やかに展開され、煌びやかに幕を閉じる。 ■第2番 Allegretto grazioso、8分の3拍子、ホ短調。複合三部形式。 舞曲の形式に付いては、ポーランドを起源として広く東欧で親しまれている「ドゥムカ」だとする説や、伴奏の形などからドヴォルザークの故郷であるボヘミアの「ソウセツカー」だとする説など諸説ある。  第1部の最初に登場するホ短調のメロディは、スラヴの民謡らしい甘美な響きながらも哀愁をたたえた調べで、たちまち聴く人の心を魅了する。旋律パートには、molto espressivoと添えられ、情感豊かにメロディが紡がれていく。 33小節目からはホ長調に転調し、これまでの感傷的な雰囲気から一転し、軽やかで愛らしい雰囲気に変わる。プラルトリラーの装飾が付き、快活な曲想は、音に合わせて人々が舞い踊る様子が目に浮かんでくるようだ。 続いて第2部に入るとホ長調からハ長調へ転調し、落ち着いた牧歌的な主題が現れる。ホ長調やハ長調の主題には、ポーランド発祥のマズルカの特徴も見受けられる。 第3部に入ると、再び第1部の主題が再現され、静かに終わっていく。 この曲は世界的名ヴァイオリニストのクライスラーによってヴァイオリン独奏版にも編曲され、〈スラヴ舞曲集〉の中でも特に有名な一曲である。 ■第3番 Allegro、4分の2拍子、ヘ長調。複合三部形式。 舞曲の形式としては、ひとつの舞曲形式のみで曲を構成するのではなく、スコチナーなどのチェコの民族舞曲や民謡を織り交ぜて一曲を形作っている。1曲を通じて様々なチェコ民族音楽の一面を見ることが出来る興味深い作りである。  第1部は3小節単位という少し変わった主題から始まる。この主題が印象的に2回繰り返された後、メゾピアノで新しい主題が始まる。この主題は2小節単位の単純なものだが、シンプルな中にも繊細な歌心が秘められており、チェコの民謡らしさが光っている。 2つの主題が絡み合いながら、小さな転調を繰り返して音楽が展開されていき、第2部へと突入してゆく。 第2部に入ると、ヘ長調から下属調の変ロ長調へ転調し、甘く切なく哀愁を帯びたメロディが登場する。このメロディが16小節間続いた後、今度はUn pochettino lentoとなり、先ほどまで哀愁に満ちた音楽から一転し、無邪気で戯れるような快活な音楽が現れる。この主題は最初ピアニッシモで登場するが、徐々に活気に満ち始め盛り上がっていき、Piu animatoに入るとフォルテッシモとなって最高潮に達する。 第3部に入ると、Tempo Iとなり、再びヘ長調へ戻り、第1部の主題が再現されてゆく。コーダに入るとPiu animatoでフォルテッシモとなり再び最高潮まで上り詰めると、華々しくラストを迎える。 ■第4番 Allegretto grazioso、変ニ長調、8分の3拍子。複合三部形式。 舞曲の形式は、〈スラヴ舞曲〉の第1集の2番や、第2集の2番などでも使われている「ドゥムカ」という形式である。ドゥムカとは、ウクライナ発祥の民族音楽の一つであるとされるが、他にもポーランドが発祥であるなど諸説言われている。哀愁に満ちた音楽が人々の心に響き、18世紀から19世紀にかけて、広くスラヴ諸国一帯に広まり、チャイコフスキーなどもドゥムカのピアノ曲を作曲している。 この曲は、ドヴォルザークのドゥムカの中でもウクライナのドゥムカの性格を色濃く持つ曲となっている。  第1部は広大なスラヴの大自然を感じさせるような牧歌的で美しい主題から始まる。この主題が2回繰り返されると、a tempoとなり活気に満ちた新しい主題が展開される。再び冒頭の牧歌的な主題に戻ると、第2部へと続いていく。 第2部では、変ニ長調から嬰ハ短調に転調する。この2つの調は異名同音で読み替えると、同主調の関係にあたる。sempre staccatoと記され、16分音符の刻みと付点16分音符が特徴的に一貫して流れており、牧歌的な印象の第1部とは対照的にリズミカルに書かれ、コントラストが鮮やかに描かれている。molto ritard.し、フェルマータを経て、a tempoで第3部となり、第1部が再現され、静かに終わる。 ■第5番 Poco adagio、8分の4拍子、変ロ短調。 〈スラヴ舞曲集〉は複合三部形式で書かれているものがほとんどであるが、この曲は複合二部形式という珍しい形式で書かれている。 舞曲の形式は、チェコの中部ボヘミア地方のシュパツィールカという踊りで、ゆったりと落ち着いた「静」の部分と、快活な「動」の部分が交互に出てくるのが特徴的である。  曲の冒頭は、ボヘミアらしい憂いをたたえた美しいメロディの主題から始まる。シュパツィールカはゆったりとして「静」の部分から始まるが、ドヴォルザークはそこに重厚感さえ漂わせている。 続く12小節目からはVivaceとなり、変ロ短調の平行調の変ニ長調となり、テンポの取り方も4分の2拍子的になっている。この主題は、シュパツィールカの「動」の部分にあたり、リズミカルで躍動感にあふれている。変ニ長調の明るく陽気なメロディの中にも、どこか物悲しさが感じられドヴォルザークらしさが垣間見える。曲が盛り上がっていくと、短調へ転じて音楽が繰り返され、フォルツァンドで頂点に達した後、下降してフェルマータとなると、Poco adagioで冒頭の主題が再現される。 再現の主役はSecondoパートとなっていて、普段伴奏パートの多いSecondoの腕の見せ所のとなっている。 ■第6番 Moderato,quasi Menuetto、変ロ短調、4分の3拍子。複合三部形式。 舞曲の形式は、ポーランドからチェコのモラヴィア地方にかけてみられるウォーキングダンスの一種で、ポーランドのポロネーズに近い「スタロダーヴニ」という舞曲である。  第1部は優しくのどかなメロディから始まる。そのほのぼのとした曲想からはスラヴの緑豊かな田園風景が目に浮かぶようである。 第2部に入ると、Un poco piu mossoとなり、オクターブの跳躍をもつ明確な主題が現れる。ドヴォルザークの卓越した作曲技法の光る巧みな展開がなされた後は、Tempo Iとなり、第1部の再現となる第3部へと突入する。 第3部では、第1部と同じ構成で主題が展開されていくが、細かい装飾などが加えられ、より一層優美に花が添えられ幕を閉じる。 ■第7番 Allegro vivace、4分の2拍子、ハ長調。複合三部形式。 舞曲の形式は、「コロ」というバルカン半島一円のクロアチアやセルビアなど旧ユーゴスラビア諸国で踊られていたもの。「コロ」とは「車輪」という意味で、その名の示す通り、輪になって手をつなぎ小刻みに足を動かす民族舞踊である。  曲の幕開けは、4小節間の序奏のような導入の後、今にも踊りだしたくなるようなリズミカルで陽気な主題から始まる。この主題が2度繰り返されると、愛らしいメロディが疾走感はそのままに登場する。小さな転調を伴いながら、勢いが衰えることなく音楽が展開されていく。 第2部に入ると、ハ長調から同主短調のハ短調になり、息の長いフレーズと共に哀愁を帯びてくるが、次第に第1部の活気が戻り始めると、再びハ長調となり、第3部となる。 第3部では、第1部の主題が自由に展開され、poco piu mossoでフォルテッシモとなると勢いは頂点へと上り詰め、華々しく終わる。 ■第8番 Grazioso e lento,ma non troppo,quasi tempo di Valse、4分の3拍子、変イ長調。複合三部形式。 舞曲の形式は、チェコのゆるやかな3拍子の舞曲である「ソウセツカー」であるが、ポーランドの快活な3拍子の舞曲である「マズルカ」の要素も織り込まれている。ここには、ドヴォルザークの故郷チェコの舞曲だけを取り扱うのではなく、広くスラヴ地域一帯の民族舞曲を盛り込んだ第2集の特色が凝縮されており、まさに〈スラヴ舞曲集〉第2集の最後を飾るに相応しい一曲と言えよう。  第1部は半音階的にゆったりと上昇してゆく優雅な主題に始まり、この主題が繰り返されると、さらに勢いを増してクロマチックに駆け上がっていく甘くロマンチックな主題へと変わっていく。幻想的で柔らかく音楽が流れていき、第2部へと続いていく。 第2部に入ると変ニ長調に転調し、ゆるやかに美しく音楽が展開されていく。やがてイ長調になると力強い主題が現れるが、それも長くは続かず再び変ニ長調へと戻っていく。 第3部では、より幻想的に第1部が再現され、poco tranquilloを経て、まどろみの中に音楽が消えていったかと思うと、最後にフォルテッシモで2回和音が打ち鳴らされ、力強く〈スラヴ舞曲集〉の幕を閉じる。

執筆者: 小林 由希絵

楽章等 (8)

第1番 Op.72-1

調:ロ長調  総演奏時間:4分30秒 

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第2番 Op.72-2

調:ホ短調  総演奏時間:5分30秒 

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第3番 Op.72-3

調:ヘ長調  総演奏時間:3分30秒 

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第4番 Op.72-4

調:変ニ長調  総演奏時間:6分00秒 

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第5番 Op.72-5

調:変ロ短調  総演奏時間:3分00秒 

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第6番 Op.72-6

調:変ロ長調  総演奏時間:3分30秒 

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第7番 Op.72-7

調:ハ長調  総演奏時間:3分30秒 

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第8番 Op.72-8

調:変イ長調  総演奏時間:7分30秒 

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楽譜

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