ブルクミュラー(ブルグミュラー) : イラディエールの《アイ・チキータ》によるスペイン風ワルツ
Burgmüller, Johann Friedrich Franz : "Aÿ Chiquita" del Maëstro Iradier, Valse Espagnole
作品概要
出版年:1863年
楽器編成:ピアノ独奏曲
ジャンル:ワルツ
総演奏時間:4分00秒
著作権:パブリック・ドメイン
解説 (1)
解説 : 林川 崇
(1040 文字)
更新日:2024年10月6日
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解説 : 林川 崇 (1040 文字)
セバスティアン・イラディエール(1809~1865)は、かつて有名だったポピュラー・ソング「ラ・パロマ」(エルヴィス・プレスリーやフリオ・イグレシアスもカヴァーした)や、ビゼーがオペラ「カルメン」の「ハバネラ」を作曲する際に参考にしたことで知られる「エル・アレグリート」の作曲者。想いを寄せる女性が結婚すると知って悲しむ歌詞の「アイ・チキータ」は1860年に出版された。
原曲は、一つのリフレインのみが少しずつ形を変えながら繰り返される単純な形式であり、1863年に出版されたブルグミュラーの編曲では、ワルツ主部の第1主題がそれに該当する。
・イラディエール:「アイ・チキータ」より
序奏やその他の主題は原曲にはなくブルグミュラーが作曲したものだが、いずれのテーマにもイラディエールの原曲のモティーフがそれとなく取り込まれており、原作と同化した楽想を新たに創って発展させるブルグミュラーの手腕が窺える。
フランスの音楽界におけるスペイン趣味というと、ラロの「スペイン交響曲」やビゼーの「カルメン」が初演された1875年以降のイメージが強いが、実際にはそれ以前から存在していた。1810年代のパリには、ギタリストのフェルナンド・ソル(1778~1839)やテノール歌手のマヌエル・ガルシア(1775~1832)といったスペインの音楽家も来ており、当然その時点で実際のスペイン由来の音楽は聴かれていた筈である。1830年代にはショパンの「ボレロ」Op.19や、ロッシーニの歌曲集「音楽の夜会」の第5曲「誘い」(副題が「ボレロ」)、リストの「『密輸入者』による幻想的ロンド」S.252(ガルシア作曲のサルスエラからのアリアによる)といった作品が作られている。1836年にはバレリーナのファニー・エルスラー(1810~1884)がパリでスペイン民謡「カチューチャ」を踊り大ヒット。その2年後にはブルグミュラーも「『カチューチャ』による華麗なディヴェルティスマン」Op.36を作曲した。1850年代以降は、パリで活躍したニューオーリーンズ出身の作曲家兼ピアニスト、ルイ・モロー・ゴットシャルク(1829~1869)がスペインの音楽を素材としたピアノ曲をいくつも発表した他、シャルル・ドリュー(1825~1915)の「スペインの謝肉祭」Op.38(1858)や、アンリ・ラヴィーナ(1818~1906)の「小さなボレロ」(1865)等、フランス人作曲家によるスペイン趣味のピアノ曲も書かれている。