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フランク, セザール :オルガニスト、ハルモニウムのための63の小品 FWV 41

Franck, César:L'Organiste, 63 pièces pour harmonium FWV 41

作品概要

楽曲ID:80257
作曲年:1889年 
出版年:1896年 
楽器編成:その他 
ジャンル:曲集・小品集
著作権:パブリック・ドメイン

解説 (1)

解説 : 喜多 宏丞 (2233文字)

更新日:2022年10月10日
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『オルガニスト:ハルモニウムのための63の小品』(1889-1890)は、セザール・フランク(1822-1890)が晩年に作曲した小品集で、フランクならではの豊かな色彩感と、それでいてどこか落ち着きを感じさせる響きが、1つ1つの小曲に宿っている。100曲を目安に構想されたものの、作曲者の死により63曲までで絶筆となった。

『オルガニスト(オルガン奏者)』と題された曲集ではあるが、足鍵盤のないハルモニウムのために作曲されているため、そのままの楽譜をピアノでも演奏できる。各曲の魅力を引き出した演奏を目指すに当たっては、時折、音が減衰しないオルガンならではの長音や、記譜音よりもオクターヴ上または下の音を出すレジストレーションが指定された場面など、少しばかり音楽的な工夫が必要な場面もあるが、一方で、ピアノならではのクリアな音色がマッチすると感じられる曲やフレーズも多い。例えばJ. S. バッハの多くの作品が、使用楽器として「ピアノ」を想定していなかったにもかかわらずピアニストたちに愛奏されてきたように、この美しい小品集もまた、楽器の壁を超えて我々ピアノ奏者を惹きつける魅力を持っている。

曲の配列は、最初の7曲が「ハ長調とハ短調による7つの小品」としてまとめられており、次の7曲が「変ニ長調と嬰ハ短調による7つの小品」、次いで「ニ長調とニ短調・・・といった具合に、7曲ごとに半音ずつ上がっていく。鍵盤を「ド」から順に右へとたどっていく方式は、バッハの『平均律クラヴィーア曲集』に倣ったものであろう。各主音7曲の内訳は、長調短調とり交ぜた6曲のヴァーセット(小曲)の後に、数小節の短いカデンツ「アーメン」を挟んで、それまでの第1番から第6番の中で登場した旋律やモチーフを散りばめた少し長めの第7番で締め括る形になっている。1892年の初版では、最後の4曲(「変イ長調と嬰ト短調」の第4番~第7番)が欠落した状態で『オルガニスト:ハルモニウムのための59の小品』として出版された。フランクは書き上がった曲から順に出版社へと随時原稿を送付していたため、「最期の追加入稿」となった4曲分が遺作集の編纂時に見落とされた、あるいは独立した別の作品と認識されてしまったのであろう。

ハルモニウムという楽器は、一昔前まで学校の教室に置かれていた「足踏みオルガン」として馴染みがある方も多いだろう(筆者の小学校の教室にも古いハルモニウムが残っていた)。手鍵盤のみ、かつリード管のみの小型のオルガンで、奏者が自ら足で空気を送るため音量が不安定な反面、細かな強弱やニュアンスの変化がつけやすい。筆者の教室に置かれていたのは音色が1種類のみの最もシンプルなものだったが、フランクは5種類のパイプを使い分けて音色に変化を付けられる楽器を想定して作曲しており、楽譜にストップ(使用パイプ)の番号でレジストレーション(音色)が指示されている。

『オルガニスト』は、古くは東京藝術大学でオルガンの入試課題に組み込まれていたこともある。難しい演奏技巧の要求されない小品集を受験生に広く準備させる課題には、ピアノにおける「ハノン」や声楽における「コールユーブンゲン」のように基礎力を見極める目的があったと思われる。ロマン派の小品によって「演奏家としての基礎力」が判断できるかは意見が分かれるところであろうし、実際藝大の入試課題からも外れて久しいが、それでも『オルガニスト』に収められた小曲の数々に触れることが、オルガン奏者を目指す若者にとって有益であり、楽譜への洞察力を養う題材としても優れた曲集だと見做されていたことは確かであろう。フランクの和声語法は転調や借用和音を駆使した臨時記号の多いものでもあり、和声感や調性感を養う読譜練習の教材としても優れた曲集であると、筆者も感じている。

循環形式を用いた大規模な作品が注目されがちなフランクだが、『オルガニスト』の多彩な小品を通して、旋律線の美しさや和声の色彩感など、彼の作品が持つ「構成力」以外のシンプルでストレートな魅力にも、是非とも目を向けてほしい。その上で、各主音の第7番では、第1番~第6番を振り返っていくような、すなわち循環形式を思い起こさせるような構成によって「組み立て方の妙」も味わうことができ、フランク好きにとって、なかなかに贅沢な曲集となっている。

【筆者の録音について】

フランクが生まれてちょうど200年に当たる2022年に筆者がピティナ・ピアノ曲事典掲載用に行った録音では、第1番~第6番は各曲が独立した小品でもあるため、それぞれ単独の6つの動画として、一方でアーメンと第7番は1つの動画として収録した。アーメンは本来「第1番~第6番に対する締め括り」として置かれていると感じられるため、第6番の直後に続けて演奏することも検討した。しかし今回の録音では、第6番が完結した小品であることと、第7番が「第1番~第6番の振り返り」という性格を持っていることに鑑みて、アーメンと第7番、すなわち「第1番~第6番があってこそ、より魅力が活きるもの」どうしを続けて演奏することにした。また、絶筆となった「変イ長調と嬰ト短調」ではアーメンが作曲されないままとなったが、同作曲家のピアノ独奏曲『前奏曲、アリアと終曲』(1887)から、変イ長調の楽章である「アリア」の結尾数小節を筆者が編曲し、第7番の前に「変イ長調のアーメン」として添えることにした。

執筆者: 喜多 宏丞
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