フォスターの名歌《おおスザンナ》をモートン・グールドが2台ピアノ用に編曲したもの。率直で気取らない原曲の味わいをそのままに、グールドが持ち前のポップスセンスをいかんなく発揮して娯楽味あふれるアレンジに仕立てた。もともとこの歌は、ゴールドラッシュに沸いた西部開拓時代に全米で爆発的にヒットしたものである。グールドは編曲にあたって、洗練された現代性とともに、古きよき時代へのあふれんばかりのノスタルジーを盛り込んだ。ほこりと汗と煙にまみれた町を荒くれ者がのし歩き、酒場からはだみ声と嬌声と陽気な歌が聞こえてくる。そんな中、愛する者のもとに悍馬を駆って馳せ参じる男の姿を描き出す。その筆致は明るくユーモラスで、どこまでも温かい。Fast and spirited 4分の2拍子、ハ長調。アレンジの中軸をなす左右の手による16分音符の交互奏は馬のひづめの音を思わせ、痛快な疾走感を巧みに表出する。同じ交互奏を、時には歌詞にも出てくるバンジョーのかき鳴らしのようにも、破れかぶれの幌馬車のきしみのようにも聞かせる。奇をてらわないオーソドックスな技法と風物描写が完全に融合して見事。ステージの現場をよく知るグールドらしく、演奏者に少しも無理を強いないのもすばらしい。グールドは1938年に「フォスター名曲総まくり」とも言うべき管弦楽曲《フォスター・ギャラリー》を書いたが、そこで大トリを飾ったのも《おおスザンナ》であった。