作品概要
解説 (1)
解説 : 西原 昌樹
(1043 文字)
更新日:2025年10月16日
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解説 : 西原 昌樹 (1043 文字)
初期の重要作。1923年5月完成。デュフォー(François Dufault ca.1604 - ca.1672)はバロック期フランスの代表的なコンポーザー=リューティスト。豊穣なリュートの世界に寄せるミゴの憧憬と共感が結晶したもの。誰よりも古楽に親しみながら、古楽の模倣の形を取らなかったところにミゴの非凡さ、斬新さがある。ルネサンスとバロックの音楽の大家でもあったミゴは、後年(1949〜1961年)母校パリ音楽院の古楽器博物館(当時)の館長(Conservateur du Musée des Instruments anciens du Conservatoire de Paris)を務めるほど古楽器にも造詣が深かった。しかしミゴは、象牙の塔に引きこもる学究の徒ではなかった。20世紀に生きる実作者として、あくまでも新曲の創作によって、古楽への尽きせぬオマージュを表明したのである。リュート奏者にとっての小宇宙、あらゆるインスピレーションの源泉であったリュートを、ミゴは自身の楽器である現代ピアノの筐体に置き換えて本作を着想した。撥弦楽器固有の奏法、繊細な装飾音、偶発的な擦過音、中空に漂う残響を模した書法をも取り入れた、全く新しい、独自の現代音楽を創造したのである。自由な形式で即興性に富む3曲よりなる。第1曲 Prélude 前奏曲、第2曲 Élégiaque 悲歌風、第3曲 Décidé 決然と。通常の小節線を廃した譜面はサティやケクランを思わせる。リュート音楽への取材はこの後も続き、1925年には3人のリューティスト(ピネル、シャンシー、メッサンジョー)を讃えるピアノ曲《前奏曲集 第2巻》を書き、やがてギター曲やハープ曲(リュート風ソナタ Sonate luthée)の創作へと展開していくこととなる。本作はブランシュ・セルヴァに献呈された。言うまでもなくダンディ、ルーセル、セヴラック、アルベニスの初演で知られた当代屈指のピアニストである。セルヴァは1923年12月15日、サルプレイエルにて本作を初演した後、主要都市で相次いで再演もしている。ピアノ曲に限らず、ミゴの作品はこのように優れた演奏者に恵まれ、理想的な形で初演されたものが多い。
