作品概要
解説 (1)
解説 : 西原 昌樹
(1594 文字)
更新日:2025年7月24日
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解説 : 西原 昌樹 (1594 文字)
大手出版社から刊行されたミゴの最初のピアノ曲。これ以前にも未刊の習作、個人出版したピアノ曲があるが、本格的な作品はここからとなる。1914年、第一次世界大戦従軍中に重傷を負ったミゴは、2年間の療養生活を経てパリ音楽院に復学後、リリ・ブーランジェ賞(1918)、レポール賞(1919)、アルファン賞(1920)、ブリュメンタール賞(1920)を相次いで受賞し、頭角を現した。本作は旺盛な創作活動を開始した時期に書かれたもの。1921年11月4日、8日、18日に完成、音楽評論誌「ルヴュ・ミュージカル」1922年2月1日号別冊付録への収載が初出。同年、モーリス・スナールよりあらためてピースとして刊行された。
エピグラムとはギリシャ語の「碑銘」に由来し、簡潔で機知に富む警句、風刺的な寸鉄詩を指すが、譜面に具体的な詩句の掲載はなく、各曲の標題もない。一般に、ミゴは何物をも想定しないで曲を書き上げてから、後づけの形で、出来上がった音から逆に具体的な事物をイメージした例が多くみられる。後から浮かんだアイデアは、私的なメモに書き留めたり、身近な弟子に話し聞かせたりすることはあっても、一部の作品を除き、作曲者自身の「解題」が公表されることは少なかった。本作では初出の後、ピースで出し直す機会があったが、あえて出版譜にアイデアを反映させることをしなかった以上、「エピグラム」の意味する内容については、基本的に演奏者の自由なイマジネーションに委ねられているとみてよい。初出の表紙のイラスト(中世風のいでたちで向かい合う男女を描いたもの)は手がかりの一つ。また、本作をベースとし、1924年にバレエ音楽《羊飼いの娘たちの饗宴》[3つのエピグラムによる](La Fête de la Bergère, d'apres les Trois Épigrammes)に改作した事実も参考となろう。
3曲全体は「ルヴュ・ミュージカル」の編集主幹アンリ・プリュニエール(Henry Prunières)に献呈。ミゴ作品の常で、それとは別に各曲に献呈先を設定している。第1曲(Allègre, léger, 2/2)はポール・マルシャル(Paul Marchal)に、第2曲(Mouvement d'une pastorale, 4/4)はジョルジュ・マルシャル(Georges Marchal)に、第3曲(Vif, 4/4)はモーリス・フォール(Maurice Faure)に、とある。いずれも調性的だが、機能和声は用いず、古代旋法に現代性を取り込んだ独自の和声法と、ポリフォニックな展開を特徴とする。ギイ・サクルは、第1曲の主題が東洋風の花飾りをまとうとし、第2曲は古代ギリシャの詩人テオクリトスの描く羊飼いを彷彿とさせ、第3曲にも田園の雰囲気が持続するという(Sacre, Guy. 1998. La musique de piano T.02. Paris: Robert Laffont)。初演は、1923年3月1日、サルエラールにおける国民音楽協会(Société Nationale de Musique)演奏会にてモーリス・フォール(第3曲の被献呈者)による。1923年4月12日、サルプレイエルにおける独立音楽協会(Société Musicale Indépendante)演奏会にてアンドレー・ピルタン(Andrée Piltan)による演奏記録もある。発表から短日月に、当代の主力級二団体の公演で相次ぎ取り上げられた事実は重い。ミゴ作品に対する楽壇の関心の高さを示していよう。