版によっては作品71とまとめられている場合もあるが、もともと一つの組曲として作曲されたものではなく、異なる7つの曲がまとめられたものである。1886年~87年にかけて作曲されている。1886年のコンサートでは、アルベニス自身、最初の4曲のみまとめて発表している。第6曲、入り江のざわめきはとりわけ有名。
1.海にて(バルカロール) / "En el mar(Barcarola)":変イ長調、8分の6拍子、コン・モート。A-B-Aの形式で印象派的な曲になっている。Aの部分では、2拍子系のゆれるような動きにのせて音符が波のような動きをみせる。Bの中間部では音数が減り、八分音符の伴奏にのせて、高音で優美な歌が歌われる。トレモロがうみだす波紋のような響きも美しく表現したい。難易度は中級程度。
2.伝説 / "Leyenda":変ホ長調、4分の3拍子、アンダンティーノ。カディスの海に伝わる伝説と関係があるのだろうか。3拍子のリズムを感じながら、一小節を大きな一拍でとるような感覚が、曲に大きな推進力を与えるだろう。昔の物語を子どもきかせるようなやさしい語り口は、ソンブリオの中間部で一変する。荒れ狂う海にもまれる船、そこにあるドラマを想像しながら演奏するとよいかもしれない。難易度は中級程度。
3.朝の歌 / "Alborada":イ長調、4分の3拍子、アンダンティーノ・ノン・トロッポ。全体的に静かな雰囲気を保ったまま、曲が進んでいく。印象派的な曲。立ち込める夜霧が徐々に晴れ、朝の太陽の光がすがすがしく輝きはじめるようだ。響きのつくり方、残響の聞き方など、非常に繊細な耳を要する。ペダルの使い方にも細心の注意が必要。難易度は中級程度。
4.アランブラ宮殿にて / "En la Alhambra":イ短調、4分の3拍子、アレグレット・ノン・トロッポ。イスラム風の怪しく艶かしい旋律が魅惑的。もともと「カプリーチョ」の副題をもっていた。物語的に楽想が変化するので、それぞれのイメージにあわせて表現に変化、工夫すると、楽しめるだろう。難易度は中級程度。
5.プエルタ・デ・ティエラ(ボレロ) / "Puerta de Tierra(Bolero)"
ニ長調、4分の3拍子、アレグロ・ノン・トロッポ。タイトルは、「ティエラ(土)の門」の意で、南スペインの港町カディスに入る門をしている。サブタイトルにボレロとあるように、ボレロのリズムにのせて、男性的な歌が、空にぬけるような声で高らかに歌われる。リズム感をうまくだすために、ペダルの使い方に工夫するとよいだろう。演奏難易度は、中級~上級程度。
6.入江のざわめき(マラゲーニャ) / "Rumores da la caleta(Malaguena)":ラから始まるミの旋法、4分の3拍子・8分の3拍子、アレグロ。いかにもスペイン的な雰囲気が魅力的で、曲集中、最も人気の高い曲。「マラゲーニャ」は、南スペイン太陽海岸の大きな港町マラガに伝わる民謡であり、「ファンタンゴ」という形式でつくられている。ひといきでなめらかに奏する部分と、スタッカートではぎれのよい部分をはっきりと弾きわける、アクセントを効果的に生かす、強弱の変化を大げさにつける、など豊かな表現をめざしたい。難易度は中級程度。
7.海辺にて / "En la playa":変イ長調、4分の3拍子、アンダンティーノ。フォーレ風のノクターンを想わせる作品。静かな8分音符の伴奏にのせて、優しくも悲しげな旋律が穏やかに歌われていく。旋律はうきたたせながらも、内的な音色をつくるようにしたい。演奏難易度は初級程度。