多くのシークエンスがあるソナタです。そのシークエンスがハーモニックシークエンスと考えられても、あるいは実際の転調と見なされたとしても、曲そのものがかなりゆっくりと進みますので、その度に、音色や音量の変化が必須となります。
例えば1小節目、悲しげなg-mollのテーマが始まりますが、3小節目(2小節目のシークエンスとも取れますが)、一時的にB-durに転調したとも考えられます。いずれにせよ、3小節目は1小節目とは全く異なった音質と音量を与えるようにします。
6小節目3拍目に現れる右手のcisもショッキングな音で、それなりの表現が欲しいです。そしてそれは8小節目で完全にd-mollとなります。この8小節目が分岐点になり、ここからシークエンスが始まり、曲は上行してテンションが上がっていくのですが、そのままB-durに転調し、13小節目でB-durのカデンツとなります。ここが次の分岐点です。
ここから更に、上行形シークエンスが始まり、調は目まぐるしく変わり、18小節目でg-mollのカデンツを迎えます。そして最後は偽終止という、実に興味深いソナタです。
アイデアとして、どちらかと言うとホモフォニーに近い書き方で、伴奏の上にメロディーが乗せられています。メロディー部分を歌と考えるか、器楽と考えるかは奏者の自由ですが。ある程度の即興性が求められ、あまりにもメトロノームのように進むのも味気ないかもしれません。音価を理解した上で、少しタイミングを崩してみると良いでしょう。