シェーンベルクの最後のピアノ独奏作品であるOp. 33bは、1931年10月にバルセロナにてわずか3日間で書き上げられた。作品番号を同じくするOp. 33aと同様に、本楽曲は十二音技法で作曲された短い作品であり、基本形とその反行形を増3度移高したもの、そしてそれぞれの逆行形という、4種類の音列が使用されている。しかし、こうした事実以外に、この二作品が同じ作品番号でまとめられたもっともらしい理由は、残念ながら見当たらない。
本楽曲は、二部形式に則って書かれている。冒頭4小節間で、基本形およびその反行形を移高した音列により、まずは第1主題が提示される。二部形式のA部分にあたるこの箇所は、主に緩やかなテンポ、弱音の指示という一貫した特徴を持つ。拍子が4分の2拍子から8分の6拍子へと変化すると、やや旋律的な第2主題があらわれる(第21小節〜)。A部分とは対照的に、このB部分はテンポと強弱の変化に富んでいる。両部分が再度あらわれたのち、8分の4拍子の終結部を迎える(第57小節〜)。終結部では一貫して弱音の指示が与えられ、音域は徐々に下降し、テンポは次第に遅くなる。原音列第1音の下二点ろ音という、最低音域で鳴り響く最終音も印象的だ。
両主題および両部分は確かに対照的ではあるが、共通点としては、主旋律と対旋律といった対位法的な音列素材の使用が挙げられよう。本楽曲において対位法的書法が用いられた背景には、シェーンベルクが当時、オペラ《モーゼとアロン》(未完)において、管弦楽のために十二音技法を用いて作曲している最中であったことがある。シェーンベルク最後のピアノ独奏曲のこうした特徴は、彼の《ピアノ協奏曲》Op. 42(1942)で再びみられることになる。