作品概要
解説 (1)
解説 : 上田 泰史
(1086 文字)
更新日:2010年1月1日
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解説 : 上田 泰史 (1086 文字)
KK IVb Nr.8
このノクターンの成立年代については諸説あるが、20世紀のショパン研究者たちの多くは1837年とみている(M. J. E. Brown, 1872 ; K. Kobila?ska, 1977)。そうだとすれば、このノクターンは《二つのノクターン》作品37(第11、12番)と同時期の作である。この曲に関しては、完全な自筆譜が一点、スケッチが二点残されており、前者にショパンの筆跡で「ノクターンNocturne」と書き込まれているので、これが現在、第21番としてノクターンの中に数えられている。この曲が出版されたのは20世紀に入ってからのことで、1939年にワルシャワで出版されたのが最初である。
この曲の形式は、生前に出版されたノクターンに比して一風変わっている上に、曲の規模も小さい。曲は、すべて4小節ずつにフレーズが分かれている。それぞれのフレーズは、旋律・和声の特徴から、a, b, c, dの4種類に分けることができる。これを図式化すると、以下のような構造がみえてくる。
小節 | 1-8 | 9-16 | 17-20 | 21-28 | 29-32 | 33-36 | 37-44 |
[a1 a2] | [a1’ a2’] | b | [c1 c2] | d1 | b’ | [c1’ c2’] | |
ハ短調 | ヘ短調 | 変イ長調 | ハ短調 |
通常、ショパンのノクターンでは、冒頭で提示された主題は、曲の後半に主調で回帰する。ところが、この曲では冒頭17小節に繰り返されるモチーフは、最初に現れたきり回帰しない。むしろ、後半に主調で再現されるのは、上の図で色づけされたbとcのモチーフである。つまり、この曲には彼が出版した作品にみられるA(主調)―B(X調)―A(主調)というシンメトリー構造が欠如しているのである。
もうひとつ、このノクターンが他の生前に出版されたノクターンと異なる点は、装飾である。ショパンは、ノクターンにおいて、同じメロディが反復される際、必ず装飾をくわえている。これは、旋律を反復するときに彼が普段から二回目は即興的に装飾をして演奏していたという習慣を示唆している(これはどんなに細かい装飾音符でも、必ず楽譜通りに弾くのを良しとする現代の演奏習慣との決定的な違いである)。ところが、この曲ではどうだろうか。a1とa1’の旋律は、記譜上はまったく同じように装飾が施されているのである。こういうことは、ショパンの楽譜の書き方としてはそう多くあることではない。ショパンが出版を認めたノクターンを基準に考えれば、この曲はつまり、楽曲のプラン、旋律の創意という点から見て、あまり気乗りがしないで書かれた曲ではないかと推察される。(上田泰史)
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