この第28番のソナタにはフーガが用いられ、幻想的な傾向の強い、それまでのピアノソナタとは一線を画する内容を持つ。作曲は1816年5月頃から11月にかけて行われ、翌年2月に出版された。
□第1楽章 アレグレット・マ・ノン・トロッポ イ長調 6/8拍子 ソナタ形式
優美で高貴な雰囲気を持つ緩徐楽章。イ長調の属和音で開始されるが、なかなか主和音に到達されずにゆったりとさまよい続け、幻想的な印象を強めている。夢見るようなメロディーはどこまでも自然に流れるが、全体は洗練された見事な構成でまとめられている。
□ 第2楽章 ヴィヴァーチェ・アラ・マルチャ ヘ長調 4/4拍子 3部形式
行進曲風の弾んだリズムによる力強い楽章だが、繊細な側面も合せ持つ。スケルツォ風でもあり、幻想曲風でもあり、独特な音楽になっている。
中間部では穏やかでレガートによるカノンが登場し、主部との対比を成している。
□第3楽章 序奏 アダージョ・マ・ノン・トロッポ・コン・アラ・アフェット イ短調 2/4拍子 主部 アレグロ イ長調 2/4拍子 ソナタ形式
まず、憂鬱で寂しげなメロディーがしみじみと奏でられて序奏が始まる。この語りかけるような深い味わいのメロディーは、やがて第1楽章の第1テーマの回想に変わり、トリラーによって繋がれ、イ長調の主部が堂々と登場する。
主部はオクターヴや和音を用い、力強く断固として進んで行く。展開部では第1テーマによる4声のフーガとなり、ストレッタに入るまで巨大な高揚を形成する。コーダにも対位法的書法が用いられ、輝かしい和音によって曲を閉じる。