作品概要
作曲年:1936年
楽器編成:ピアノ独奏曲
ジャンル:組曲
総演奏時間:13分10秒
著作権:パブリック・ドメイン
解説 (1)
総説 : 仲辻 真帆
(806 文字)
更新日:2015年5月12日
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総説 : 仲辻 真帆 (806 文字)
1930~50年代の日本人作曲家に関しては、「ドイツ系」「フランス系」もしくは「民族派」といった形容をもって語られることがあるが、尾高尚忠はそのいずれにも該当しないだろう。《日本組曲》という表題が「日本主義」なるものを連想させないこともない。尾高がこの作品を作った1930年代には、「日本的なもの」が追求され、「日本和声」を巡る論争も起きた。しかし、彼の作品は日本的なものと非日本的なものとを共存させており、その洗練されたアンビヴァレンツ(両面価値性)にこそ特徴があるといえよう。 尾高の作品第1番である《日本組曲》は、ウィーン音楽院に提出するため1936(昭和11)年に書き上げられた。楽譜は1940年、ウィーンのウニヴェルザール出版社から刊行され、1965年にはカワイ楽譜からも出版された。後に管弦楽に編曲された本作品には、何とも豊かな色彩感がある。 《日本組曲》は、〈朝に〉〈あそぶ子供〉〈子守唄〉〈祭り〉の4曲で構成されている。1曲目の〈朝に〉は、半音や前打音が幻想的な雰囲気を演出し、控えめに演奏される音楽が清浄な朝を思わせる。16分音符が主体となっている〈あそぶ子供〉では、ゆったりとした中間部でかくれんぼ(もういいかい、まぁだだよ)のモティーフが用いられている。3曲目の〈子守唄〉は、曲名が示す通り子守歌(ねんねんころりよ、おころりよ)の旋律を聞かせる。静謐に浮かび上がる旋律は哀愁を帯びている。終曲の〈祭り〉では、しめ太鼓が村祭りのリズムを刻む中、笛が吹き重なり賑やかさを増す。 《日本組曲》という同名の作品を手がけた作曲家には、山田耕筰、伊福部昭、貴志康一、別宮貞雄、平井保喜、J. ラスカ、G. ホルストがいる。ホルストが自作品に尾高と同じ子守歌を取り入れるなど、それぞれに共通する点もみられるが、上記の日本人作曲家らの作品は、尾高の《日本組曲》と比べるとより著しい土俗性を感じさせる。