ラモーはこの作品を収めた曲集を「組曲集」とはっきり名付けたが、その内容は、伝統的な舞曲と表題付小品を取り混ぜ、新しい形を示している。特に第2番は舞曲をほとんど含まず、さながらF. クープランのオルドルを思わせる。
第1番(第4組曲)はアルマンド-クーラント-サラバンドを最初に置き、伝統的な構成の片鱗をみせる。が、これには3つの表題付き小品がつづき、最後にはガヴォットと6つの変奏という、変則的な配列である。調はイ短調とイ長調に統一されている。
アルマンドは緩やかな3声。たたみかけるような旋律で綴られる。音域は両の手に渡り、前半と後半それぞれの最後にはトッカータ風の流麗なパッセージワークも現れるが、比較的厚みのあるテクスチュアと連綿と続く順次進行の音型によって、重みと落ち着きを湛えた冒頭楽章となっている。
クラントは4分の6拍子という、フランスタイプとしては少し変わった拍子を持つ。通常フランスのクラントは2分の3で書かれ、舞踊としては荘重できわめて遅い。ルイ14世の時代には宮廷舞踏会において王自身も踊る格調高い曲種と見なされていた。ラモーのこの曲は倍速で書かれているだけあって、軽快でダイナミックなアルペジオが効果的に用いられている。が、イタリアタイプの走り回るような俊敏なコッレンテであるとはいえない。緩やかな対位法書法、頻繁に(ほぼ4小節ごと)現れるヘミオラなどに、フランスタイプの典型がみられる。
サラバンドでは、それまでのイ短調の緊張感から解放され、暖かみと明澄さを湛えたイ長調へ移る。和声的だが、前打音と付点の音型によって陰影の豊かな表現力をみせる。また中間部では山形のアルペジオによるパッセージワークが美しい。この部分の3度関係による和声推移は秀逸である。
続く3曲は表題をもつ。それまでの舞曲の品格ある雰囲気が一転し、自由かつ軽妙に展開する。対位法的な声部書法はほとんど放棄され、和声リズムの遅い、右と左の手の役割分担が明確な音楽になる。
〈3つの手〉は、音域の急激な交代を主眼とする曲である。後半は左手が右手を越えて高音域の音型を担ったり、右手がバス譜表の音域にまで到達したり、その後一気に4オクターヴを駆け上がったりと、タイトル通りのユーモラスな内容を持つ。
〈小さなファンファーレ〉は、冒頭の和音の単純な5度と1度の交代にその表題の意味をよく表している。しかし重厚な和音は長く続かず、高音域でしばしばテクスチュアが薄くなるため、曲全体が荘重さや輝かしさよりもむしろ、軽快さと愛らしさに満たされる。
〈凱旋〉は各セクションの冒頭のみ模倣的に始まる。ダル・セーニョによって、2つのクプレをもつロンド形式になる。第2クプレはいきなり平行短調の fis-moll で開始し、模続進行に減七和音が現れるなど、大胆に展開する。
組曲の最後に置かれたガヴォットと6つの変奏は、ガヴォットのバス定型を主題として6とおりに変奏するもの。タイプとしては、バッハ《ゴルトベルク変奏曲》と同様である。しかし、ここに現れる6つの楽章は、分散和音の動機が連続するだけの旋律に、単純な和音を伴奏として打ち鳴らすような、きわめて単調な内容に終始している。音楽的にはバッハの30の変奏にとうてい比肩するものではない。また、和声進行も凡庸で、6回の変奏はやや退屈にも聞こえる。ただし、素早いパッセージワークは指の練習としては効果的であろう。