ホーム > バッハ > パルティータ 第6番 ホ短調 > テンポ・ディ・ガヴォット

バッハ :パルティータ 第6番 テンポ・ディ・ガヴォット BWV 830

Bach, Johann Sebastian:6 Partiten Nr.6 Tempo di Gavotta

作品概要

楽曲ID:39189
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:ガヴォット
総演奏時間:2分50秒
著作権:パブリック・ドメイン

ピティナ・ピアノステップ

23ステップ:展開1 展開2 展開3

楽譜情報:11件
  • クリックして画像を開く
  • tab

解説 (1)

演奏のヒント : 大井 和郎 (1239文字)

更新日:2024年1月21日
[開く]

作曲家が書く音符には全てそれなりの意味があると筆者は信じています。

「慣例的奏法」というのが存在するらしいのですが、それは、3連符に対して付点8分+16分が出てきた場合、最後の音をずらす事をしないという慣例らしいです。

例えば、フランス序曲の影響を受けている曲であれば、実際に書かれている付点のリズムよりもきつい(鋭い)リズムに変えてしまうと言うファッションがあります。しかし、今回の、3連符に対して付点8分+16分という問題は、多くの原因があるらしく、奏者の問題や、楽譜を制作する側の問題も含まれているらしいです。Johan Joachim Qantzも著書(1752)でその点を指摘しています。

冒頭の右手は16分音符2つと8分音符1つです。3連符ではありません。次の拍は付点8分と16分音符であって、8分音符と16分音符ではありません。

多くの演奏を聴きましたが、数名のハープシコード奏者が、この楽譜に忠実に音楽を再現していました。一方で、多くのピアノ奏者はリズムを勝手に変えて演奏しています。3連符に対して付点8分+16分の最後の音を合わせるのが、所謂「慣例的奏法」であるからという理由であれば、まだ100歩譲れるのですが、冒頭の16分音符2つ+8分音符1つを、3連符に勝手に変えてしまう理由は見当たりません。

ベートーヴェンの月光第1楽章もそうなのですが、付点8分+16分に対し、その下とか上に3連符が書かれてあるとき、16分音符は3連符の最後の音と合うことはありません。プロコフィエフ3番のソナタにも同じ事が言えます。

プロコフィエフの3番のソナタを弾くとき、3連符と付点8分+16分を忠実に守ることは至難の業です。しかしだからと言って、コンチェルトの2番の冒頭を弾くとき、付点8分+16分を3連符と重ねるのは御法度です。

一方で、ショパンシューベルトに関しては、付点8分+16分の16分音符を3連符の最後の音と一致させるという奏法は常識的であったらしく、それが前提で楽譜が書かれてあると専門家は指摘しています。ショパンバラード4番のコーダが典型的な例になります。

しかし、フランス組曲G-durのジーグをご覧下さい。4小節目、右手には8分音符と16分音符が書かれており、それは左手の16分音符とピッタリ一致します。バッハの書いているこれらのリズムが正しければ、このテンポ・ディ・ガヴォットに書かれているリズムは、フランス組曲G-durジーグのリズムとは異なりますので、故に、書かれてある通りに、正確に弾かれて然るべきです。最終的には奏者が決めることではありますが、筆者はここに書かれているリズムに忠実に弾きます。

なお、テンポ・ディ・ガヴォット のテンポも、そのあまりにも異なる様々な演奏に驚かされます。ガヴォットのテンポは「中庸の速さの舞曲」という事らしいのですが、中庸の速さとは果たしてどのくらいの速さなのでしょうか。この問題に関しても最終的には奏者に委ねられるとは思います。

執筆者: 大井 和郎