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ベートーヴェン : ピアノ・ソナタ 第23番「熱情」 第1楽章 Op.57

Beethoven, Ludwig van : Sonate für Klavier Nr.23 "Appassionata" 1.Satz Allegro assai

作品概要

楽曲ID:30736
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:ソナタ
総演奏時間:9分00秒
著作権:パブリック・ドメイン
ピティナ・コンペ課題曲2025:F級

ピティナ・ピアノステップ

23ステップ:発展1 発展2 発展3 発展4 発展5 展開1 展開2 展開3

楽譜情報:4件
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解説 (2)

解説 : 岡田 安樹浩 (1093 文字)

更新日:2019年1月14日
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(第1楽章)8分の12拍子 ヘ短調 ソナタ形式

[提示部]

主要主題は、特徴的なリズム・パターンによる主和音の分散和音と属和音上のトリル音型という2つの動機からなり、これがすぐにナポリII度の調(変ト長調)で繰り返される。第5交響曲Op.67の第1楽章で中心的に用いられる、いわゆる「運命の動機」も低音域に姿を見せる。

和音の上行連打を挟みつつ主題が確保された後、変ホ音の同音連打による推移部が変イ長調の副次主題を準備する。

主要主題における分散和音のリズム・パターンと類似した変イ長調の副次主題の提示に続き、低音域での分散和音のなかに主要主題後半のトリル音型を取り込んだ変イ短調のもう1つの副次主題があらわれる。切れ間なくコデッタへなだれ込み、高音域の細かい分散和音と低音域へ下降する長い音価の分散和音によって、5オクターヴ隔たった変イ音に収束する。

[展開部]

提示部の反復はなく、提示部最後の変イ音を異名同音の嬰ト音に読み替えてホ長調に転調する。まず主要主題がホ長調であらわれ、後半の動機(トリル音型)が発展的に繰り返される。次に前半の動機(リズム的分散和音)がホ短調、ハ短調で展開され、変イ音の同音連打へたどりつく。これは紛れも無く提示部の推移部分であり、続いて変ニ長調で第1の副次主題があらわれる。

この副次主題が変ロ短調、変ト長調へと発展し、変ト音を嬰へ音に読み替えてロ短調を一瞬経由して主調であるヘ短調の二重ドミナント、そしてドミナントへと進行する。

導音上の減7和音(属9和音の根音省略形ともいう)の幅広い音域の分散和音、高音域と低音域で繰り返される変ニ音→ハ音の「運命の動機」が再現部を導く。

[再現部]

「運命の動機」から引き続く低音域でのハ音、すなわちヘ短調の属音の連打の上に主要主題が再現される。同主長調であるヘ長調で確保されたのち、推移を経てヘ長調、ヘ短調で再現される。

[終結部]

結句は5オクターヴ隔たったへ音へは収束せず、そのまま細かな分散和音と低音域に主要主題前半の動機が発展的に繰り返される。変ニ長調へ転じて第1副次主題があらわれ、ヘ短調へ戻るも、すぐにナポリII度の和音からはじまる分散和音のデンツァ風の楽句が挿入される。「運命の動機」が繰り返されるなか、Piu Allegroとなって第1副次主題がヘ短調であらわれ、最弱音(PPP)へ沈み込んで終結する。

提示部の主題がすべて主要主題から導き出されている動機展開技法のほか、展開部の提示部との構造上の共通性、終結部が第2の展開部にまで拡大されている点など、多くの面で円熟したベートーヴェンのソナタ形式楽章の姿がみてとれる。

執筆者: 岡田 安樹浩

演奏のヒント : 大井 和郎 (2069 文字)

更新日:2019年12月20日
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ベートーヴェンの3大ソナタの1つです。ところで皆様は、ベートーヴェンの書くソナタの第1楽章が複合拍子であるのは、この熱情ソナタとop 7 、op101の3曲しか無い事にお気づきでしょうか?彼は殆どの第1楽章を単純拍子で書いています。複合拍子を使うのはどのような意味があるのでしょうか?冒頭をご覧下さい。

仮に、筆者が作曲家であった場合、筆者であればもしかしたら4/4拍子という拍子を使い、冒頭(1ー2小節間)のユニゾンを16分音符ではなく、3連符を使うかも知れません。3連符の最初の2つをタイで結び、残りの1つを、実際に書かれてある、タイのかかってない16分音符の代わりにするかもしれません。ベートーヴェンは何故そうしなかったのでしょうか?試しに、この冒頭を、4/4拍子で3連符を使って弾いてみて下さい。

如何でしょうか?何か緊張感に欠ける感じがしませんか?4/4で3連符を使うより、12/8で16分音符を使う方が、次の音との時間が短くなります。つまりは、詰まされている状態です。この方が、たとえppでも、緊張感が出ます。

また、ベートーヴェンの頭の中には、1拍の中に3つのディビジョンが常に流れている事により、このソナタを特別の雰囲気に仕上げています。これは後術します。

1ー13小節間、ダイナミックはほぼppです。クレシェンド、ディクレシェンドマーキングは、9小節目と11小節目にありますが、あとは全てppです。従ってそれに従いますが、しかしながら緊張感を持続させます。3小節目と7小節目は少し安心する場所かも知れないですが、和音は転回形を使っているため、あまり落ち着きません。3小節目3拍目のトリルの速度は、4拍目の16分音符と最終的に速度が合うようにします(7小節目も同じです)。

よく起こるミスとして、4小節目の最初の和音を4分音符として音価を守るのですが、あまりにもリズム通りに休符を守ると機械的にきこえます。ホールの中で、音が残響を残し、ふっと消えていく感じをだします。勿論、休符を守った上での話ですので、必要以上に伸ばさないようにします。

さて、10小節目をご覧下さい。3拍目に8分音符3つと4拍目に4分音符がありますね。どこかで耳にしたリズムではないでしょうか?これはベートーヴェンの交響曲5番の冒頭に使われているリズムです。このリズムは一体どのような意味があるのでしょうか?これはドアをノックする音の描写です。誰かがドアをノックしている、その恐怖心の描写です。一体ドアの前には誰がいるのかわからない恐怖です。そしてその恐怖は、12ー13小節間、続き、そして一気に気持ちが乱れてしまうのが、14小節目のアルペジオです。そのように理解します。

そして17小節目にはとうとう感情が爆発する描写ですね。ここで注意点が1つあります。先ほどもお話ししたように、これは12/8拍子です。この17小節目、20小節目、22小節目、拍の認識ができていない奏者が後を絶ちません。中には急激にアチェルランドしてしまう奏者もいるくらいです。ここはしっかりと拍を認識し、拍の頭を感じて演奏します。

このような箇所を弾くときも、21小節目の様な箇所を弾くときも、常に頭の中には、1拍に3つのディビジョンが休みな流れていることを認識するようにします。典型的な場所といいますか、その最たる場所が24小節目以降です。ここは完全に1拍に3つのディビジョンが流れていますのでわかりやすいですね。

この24小節目から34小節目まで、版によってはテンポチェンジマーキングが付けられている版もあります。つまりは、若干ですが、ここはテンポが少しだけ速く弾いても良い箇所と、筆者は認識しています。逆に、35ー40小節間は、書かれてある16分音符のリズムを正確に守るためにも、少しだけテンポはゆったり目になります。

51ー52小節間 ペダルは1拍目と3拍目に入れ、2拍目と4拍目はペダルを離します。55ー56も同様です。

メロディーラインがきこえづらくなる部分は、54小節目の2拍目、Fesです。右手と近い位置にあるからです。58小節目の場合はオクターブなので何とかきこえるのですが、この54小節目はバランスに気をつけます。

60小節目、テンションがピークに達する部分です。さらっと弾くのではなく、弾きづらそうに弾くのがコツです。

91ー92小節間 左手の音がクリアーに聞こえるように、ペダルは1拍毎に濁らないように、バスのAsとAをハッキリと聴かせるようにします。

209小節目、4拍目、右手の音の読み違いが後を絶ちません。4拍目だけは音が異なります。

235ー237小節間 ペダルはsempre ped と書いてありますが、テンペストのカデンツと同じく、筆者であれば少し踏み替えます。このマーキングはベートーヴェンの時代のピアノに合わせたもので、これを現代のピアノでこのように踏むと激しい濁りが生じます。

239小節以降 今までで最も速いテンポになります。冒頭4つの和音から、最速でスタートします。

執筆者: 大井 和郎

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