ベートーヴェン : ピアノ・ソナタ 第26番「告別」 第1楽章 Op.81a
Beethoven, Ludwig van : Sonate für Klavier Nr.26 "Lebewohl" 1.Satz Adagio-Allegro
作品概要
解説 (2)
解説 : 岡田 安樹浩
(1325 文字)
更新日:2019年2月16日
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解説 : 岡田 安樹浩 (1325 文字)
(第1楽章)変ホ長調 4分の2拍子/2分の2拍子 ソナタ形式
[序奏+提示部]
まず16小節の序奏(Adagio)がおかれる。その冒頭は3度順次下降する自然ホルンの音型(長3度→完全5度→短6度の2声部進行)による動機で開始され、各音にLe-be-wohlと歌詞のように言葉が付されている。この動機に続いてバス声部の半音階下降とソプラノ声部の4度→5度→6度と拡大されてゆく跳躍音型が組み合わされた動機が、この楽章全体を構築する動機となる。
またドミナントから同主短調のVI度へ進行する転調方法(第7~8小節)も、この作品全体の1つの特徴である。
主部(第17小節~)はAllegro2分の2拍子となり、主要主題が提示される。半音階下降するバスと4度跳躍の動機による開始、幅広い分散和音の上にオクターヴ奏による跳躍・順次下降音型からなるこの主題は、まぎれもなく序奏の動機を発展させたものである。この順次下降音型や、続く推移(第29小節~)以降しばしばあらわれる半音低められた音階の第6音によってつけられる調的響きの陰影は、作品全体に作用している。
副次主題(第35小節~)は属調である変ロ長調で提示される。まず3度順次上行と下降が組み合わされ、半音低められた第6音(変ト音)と内声部の刺繍音型が陰影をつける。躍動的な跳躍音型の変形、3度順次下降の動機に続いて、3度順次下降の拡大形と刺繍音型の組み合わされた主題があらわれる(第50小節~)。
コデッタは下降音型が付点リズム化された動機によっており、冒頭の3度下降音型が長い音価で再びあらわれると、提示部が反復記号によってくり返される。
[展開部+再現部]
展開部(第70小節~)は提示部主部の開始を模しているが、主部では開始音が変ホ長調のIV度であったのに対し、ここではハ短調のV度ではじまる。
順次下降音型と跳躍上行音型が交互にあらわれ、変ロ短調、変ホ短調、変ト長調を経由してハ短調に行き着く。ソプラノが下降線を描く和声的な進行とバスの跳躍音型が組み合わされ、変ホ長調のIV度の和音が再現部を準備する。
再現部(第110小節~)は伝統的なソナタ形式に則り、主要主題、副次主題はともに主調である変ホ長調で再現されるが、これに続くコーダは展開部以上の規模をもつ。
[終結部]
終結部(第162小節~)は展開部と同様主部の開始を模してはじめられるが、ここでは主要主題をほとんどまるごとハ短調で提示し、変ホ短調でも主題の一部をくり返す。
3度下降音型が単音で、山彦がこだまするかのように模倣的にあつかわれ、徐々に和声づけがなされてゆく。これはまるで動機が生成されてゆくさまを見てゆくようであり、楽曲の核となっている動機の誕生秘話が後から語られているような印象すら受ける。
下降音型は延々と鳴り響き続け、その背後に音階パッセージがあらわれ、また消えてゆく。下降音型が自然ホルンの音型で再現されると(第227小節~)、これも山彦のごとく模倣され、再び音階パッセージをともなって楽章を閉じる。
ベートーヴェンの楽曲終止において動機が執拗にくり返されることは珍しくないが、ここでの音型反復は「告別」の標題とあいまって独特の表現を勝ち取っている。
演奏のヒント : 大井 和郎
(880 文字)
更新日:2019年12月20日
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演奏のヒント : 大井 和郎 (880 文字)
ベートーヴェンの完全なるプログラマティックソナタです。中期の代表作です。しかしながらこのソナタ、技術も音楽面もかなり難しいソナタです。慎重に、丁寧な練習が必要になります。
冒頭2小節、最初の3つの和音がこの楽章の動機になります。上の音をクリアーに出して下さい。2小節目2拍目裏拍から3小節目まで、よく起こるのがリズムの過ちです。2小節目2拍目裏拍のリズムは、付点16分音符と32分音符です。付点16分音符は32分音符3つ分ですので、そのように数えて弾くと弾きやすくなります。多く起こるミスとしては、このリズムを、3連符のリズムで弾いてしまうことです。以降、3小節目も同じです。
このリズムはこの間3回登場しますが、1ー2回目のこのリズムで、32分音符で書かれてある音はアポジャトゥーラと言う非和声音です。当然次の音が解決音ですので、解決音の方の音量をを小さくします。3小節目2拍目裏拍の同じリズムでは、経過音という非和声音です。これも次の音で解決されるのですが、4小節目の最初の音であるEsは、ピークポイントになる音ですので、解決音であろうとも解決音の方の音量を強くします。
以降、同じリズムと同じ非和声音(アンティシペーションという非和声音も入ってきます)ですので、同じく10小節目最初の音、Gesに向かいます。
12ー16小節間、カウントを怠らず、しっかりと数えて下さい。
21小節目と類似小節 スタッカート、4分休符を守ります。
36小節目 苦悩の描写です。スフォルツアンド(ゴールの音)を一番大きく弾きます。以降、類似小節も同じように弾きます。
64小節目 taper down という技法を使います。メトロノームのようにきっちり弾くのではなく、徐々に衰退して、テンポも若干落ちます。
181小節目以降、183小節目の4分休符、2分休符をしっかり守ります。183小節目のAsは、フレーズの最後の音ですので力を入れません。消えていくように弾きます。つまりは、4分休符、2分休符を守ってもぷっつりと切れた感じにならない音量まで下げます。以降、類似小節を同じように弾きます。
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