(第1楽章)変ホ長調 4分の2拍子/2分の2拍子 ソナタ形式
[序奏+提示部]
まず16小節の序奏(Adagio)がおかれる。その冒頭は3度順次下降する自然ホルンの音型(長3度→完全5度→短6度の2声部進行)による動機で開始され、各音にLe-be-wohlと歌詞のように言葉が付されている。この動機に続いてバス声部の半音階下降とソプラノ声部の4度→5度→6度と拡大されてゆく跳躍音型が組み合わされた動機が、この楽章全体を構築する動機となる。
またドミナントから同主短調のVI度へ進行する転調方法(第7~8小節)も、この作品全体の1つの特徴である。
主部(第17小節~)はAllegro2分の2拍子となり、主要主題が提示される。半音階下降するバスと4度跳躍の動機による開始、幅広い分散和音の上にオクターヴ奏による跳躍・順次下降音型からなるこの主題は、まぎれもなく序奏の動機を発展させたものである。この順次下降音型や、続く推移(第29小節~)以降しばしばあらわれる半音低められた音階の第6音によってつけられる調的響きの陰影は、作品全体に作用している。
副次主題(第35小節~)は属調である変ロ長調で提示される。まず3度順次上行と下降が組み合わされ、半音低められた第6音(変ト音)と内声部の刺繍音型が陰影をつける。躍動的な跳躍音型の変形、3度順次下降の動機に続いて、3度順次下降の拡大形と刺繍音型の組み合わされた主題があらわれる(第50小節~)。
コデッタは下降音型が付点リズム化された動機によっており、冒頭の3度下降音型が長い音価で再びあらわれると、提示部が反復記号によってくり返される。
[展開部+再現部]
展開部(第70小節~)は提示部主部の開始を模しているが、主部では開始音が変ホ長調のIV度であったのに対し、ここではハ短調のV度ではじまる。
順次下降音型と跳躍上行音型が交互にあらわれ、変ロ短調、変ホ短調、変ト長調を経由してハ短調に行き着く。ソプラノが下降線を描く和声的な進行とバスの跳躍音型が組み合わされ、変ホ長調のIV度の和音が再現部を準備する。
再現部(第110小節~)は伝統的なソナタ形式に則り、主要主題、副次主題はともに主調である変ホ長調で再現されるが、これに続くコーダは展開部以上の規模をもつ。
[終結部]
終結部(第162小節~)は展開部と同様主部の開始を模してはじめられるが、ここでは主要主題をほとんどまるごとハ短調で提示し、変ホ短調でも主題の一部をくり返す。
3度下降音型が単音で、山彦がこだまするかのように模倣的にあつかわれ、徐々に和声づけがなされてゆく。これはまるで動機が生成されてゆくさまを見てゆくようであり、楽曲の核となっている動機の誕生秘話が後から語られているような印象すら受ける。
下降音型は延々と鳴り響き続け、その背後に音階パッセージがあらわれ、また消えてゆく。下降音型が自然ホルンの音型で再現されると(第227小節~)、これも山彦のごとく模倣され、再び音階パッセージをともなって楽章を閉じる。
ベートーヴェンの楽曲終止において動機が執拗にくり返されることは珍しくないが、ここでの音型反復は「告別」の標題とあいまって独特の表現を勝ち取っている。