ミヨーが1923年に書いた《世界の創造》(Op. 81a) は、音楽史上、クラシックに本格的な
ジャズの語法を取り込んだ最も早い例の一つに挙げられる。《3つのラグ・カプリス》は
《世界の創造》の前年(1922年)の夏にエクスの実家で書かれたものである。友人ジャン
・ヴィエネルに献呈され、1922年11月23日にヴィエネルが自身のコンサートで初演した。
当時ヴィエネルは酒場のピアニストとして生計を立てながら、自身の企画するコンサート
シリーズで古典から前衛、ジャズ、ブルースまでを精力的に取り上げ、当時の「六人組」
の活動に大きな影響を与えた。
本作にはヴィエネルの得意とした演奏スタイルが投影されている。サティの《蒸気船のラ
グタイム》(1917年)、ストラヴィンスキーの《11楽器のためのラグタイム》(1917-18
年)、《ピアノ・ラグ・ミュージック》(1919年)などの系譜に連なる軽快な音楽である
。《世界の創造》のように入念な対位法を凝らしたものではない。両端楽章は鋭利なリズ
ムとスピーディーな楽想が一貫し、ロマンスと題された歌謡的な中間楽章と好対照をなす
。
ミヨーの弟子ウィリアム・ボルコムが後年確認したところでは、ミヨーはジャズのことは
よく知っているものの、本場のラグタイムへの関心は意外にも薄かったという。ボルコム
は師への敬愛の念が人一倍深く、創作と実演の両面でラグタイムの稀代の名手でもあるだ
けに、淡々とした述懐の行間にもどかしい思いをにじませる。ともあれ、本作は若いミヨ
ーが新大陸の大衆音楽を大いに興がって、気軽にタイトルに据えたものとみてよい。本作
には室内管弦楽版もある。
第1曲 Sec et musclé そっけなく、精力的に。4分の4拍子。嬰ヘ長調(調号なし)。
第2曲 Romance(ロマンス)Tendrement やさしく。4分の4拍子。ヘ長調(調号なし)。
第3曲 Précis et nerveux 明確に、落ち着かずに。4分の4拍子。ハ長調。