ヴィーン定住後の3作目のピアノ協奏曲。作曲は1782年末から翌年初めにかけて。1783年3月11日、ブルク劇場にて初演された後、23日にはヨーゼフ二世臨席のもとで《ハフナー》交響曲などと共に再演され、大成功を収めた。もともとは小編成だったが、後にトランペットとティンパニが加えられたことによって、ハ長調の力強い主題がより壮大さを増している。
この時期のモーツァルトの書簡(1782年12月28日)によれば、彼のピアノ協奏曲は「むずかしすぎず易しすぎず、音楽通はもちろん、そうでない人もなぜだか満足」できるように作られているという。そのことば通り、この時期の3つのピアノ協奏曲はシンプルな構成で耳に快く、充実した内容をもっている。また、管楽器抜きの弦楽四重奏編成でも演奏できるよう仕上げられている点でも共通している。
この作品の第1,2楽章にはモーツァルト自身によるカデンツァが残されている。
第1楽章:アレグロ、ハ長調、4/4拍子。協奏的ソナタ形式。ハ長調の堂々とした開始部に続き、ピアノのソリスティックなパッセージが軽やかに加わり、新鮮な響きをもたらす。交響的な広がりをみせるオーケストラに対して、ピアノは華麗でありながらもどこか寂寥感を漂わせている。
第2楽章:アンダンテ、ヘ長調、3/4拍子。小規模な協奏的ソナタ形式。ピアノの音が冴える穏やかな楽章。旋律は順次進行を基本としてなめらかに流れる。もともとこの楽章をハ短調にする意図もあったことが草稿から明らかになっているが、ヘ長調に落ち着いた理由は定かではない。
第3楽章:ロンド。アレグロ、ハ長調、6/8拍子。ロンド形式。ロンド・フィナーレらしい軽やかな主題で始まる。印象的なのは、2楽章で使用しなかったハ短調が、わざわざアダージョにテンポを変えて、2つのエピソードに使用されていることである。