第4番までは他人の作品を編曲したものなので、実質的には、この作品がモーツァルト初のオリジナルなピアノ協奏曲である。作曲は18歳目前の1773年12月、ザルツブルクにて。作曲の動機は明らかではないが、モーツァルト自身あるいは姉ナンネルが演奏するためであったと考えられる。また、時期的にザルツブルクの宮廷音楽家としての職務であった可能性も否定できない。
すでにオペラなどの大曲の作曲を重ね、交響曲に至っては第28番までを完成させていたモーツァルトにとって、ここにきて初めてのピアノ協奏曲への取り組みには、それなりの気合いを入れていたことだろう。それを表すように、鍵盤上を駆け巡るピアノはもちろんのこと、トランペットとティンパニを含む編成によっても作品は華やかに仕立てられている。この作品はその後の旅行中およびヴィーン時代にも演奏されていることから、モーツァルトの重要なレパートリとなったことがわかる。
第1、2楽章にはモーツァルト自身によるカデンツァが2つずつ残されている。また、第3楽章はヴィーンで演奏される際、より大衆に歩み寄ったロンドK. 382に差し替えられ、拍手喝采を受けたという。
第1楽章: アレグロ、ニ長調、4/4拍子。協奏的ソナタ形式。上行形を駆使した2つの主題による輝かしい楽章。終始この明るさを保っている。
第2楽章: アンダンテ・マ・ウン・ポコ・アダージョ、ト長調、3/4拍子。協奏的ソナタ形式。前楽章とは対照的に、穏やかではあるが下行するエネルギーを特徴とする主題から成る。
第3楽章: アレグロ、ニ長調、3/4拍子。協奏的ソナタ形式。晴れやかで力強い華々しさはあるが、しばしば挿入される管弦楽器の下行形のユニゾンによって、ピアノの自由奔放な動きを引き締めたフィナーレ。