この曲は有名すぎるほど有名ですが、なかなかそう簡単に弾ける曲ではありません。指導で得た経験に基づき、学習者が犯しがちなミス=演奏のコツをお伝えします。
まず始めに、この曲は4つのセクションから構成されていることを認識して下さい。
1. 1小節目から26小節目まで
2. 27小節目から36小節目まで
3.37小節目から60小節目まで
4.61小節目から85小節目まで
になります。ピークポイントは3つめのセクションでここがテンポとしては最も速くなります(sempre stringendo)。2つめのセクションは1つめよりも速いテンポ設定にされています(Piu animato)。そして1つめと4つめのセクションは同じ設定にされています。故に、1つめのセクションを速すぎるテンポで始めてしまうと、後のセクションをもっと速くしなければならなく、結果自分の首を絞めることになります。3つめのセクションはそう速いテンポで弾けるセクションではなく、曲中最も技術を要するセクションです。ここを安全に弾くにはくれぐれも1つめを速すぎるテンポで始めないことが大事です。
それではそれぞれのセクションの注意点と演奏のヒントをお教えします。
1つめのセクション。とにかくこの曲を弾く全ての生徒に毎回同じ事を言わなければならないのは、歌の部分と伴奏部分の音質の違いです。dolceですが同時にcantandoです。どんな時でも、伴奏に歌の部分が埋もれてしまわないように、はっきりと、歌の部分を歌って下さい。
最初の議論になる場所は3小節目です。メロディーラインはC C Des Cですね。この小節にバスは1拍目のF、1つしかありません。この小節、バスを尊重しペダルを踏みっぱなしにすると、1拍目のCと2拍目のDesが濁ります。さて、問題はこの濁りが気になるかならないかという点に尽きます。バスを失うくらいであれば多少の濁りは気にしないという考え方も尊重されて良いと思います。全く気にならない方もいるかもしれませんし、逆に絶対にここはペダルを踏み換えると考える方もいると思います。筆者はハーフペダルを使いますが、時に全く気にならない時もあります。
6小節目、前の小節からの解決の和音になりますので、この小節は特にpにしなければなりませんが、2拍目の表拍のバスをご覧下さい。低い位置でAsがなっていますね。これは、レゾネンスと判断します(reonance=余韻)。本当に聞こえるか聞こえないかくらいのpppで弾いて下さい。
13小節目、テンションが上がり始めるスタート地点の小節です。13-14小節間より、15-16小節間を大きくして16小節目に辿り着きます。まずここが最初のゴールです。しかしながら、16小節目よりも17小節目のa-mollの和音の方がより一層テンションが高くなりますので、恐らく1小節目から26小節目までの1つめのセクションでは、この17小節目が最もテンションの高くなる箇所の1つとしてお考え下さい。18小節目では、17小節目ほどのテンションは無く、むしろ緊張感が一瞬失われますが、19小節目より22小節目まで再びテンションは高まります。23小節目、最初の音であるFesをゴールにテンションを上げていきます。故に、17小節目と23小節目のFesが最も1つめのセクションではテンションの高いところと考えて良いでしょう。
良く起こりうる失敗として、この23小節目のFesに達するやいなや、力を失ってしまい、その後に続くEs Des Ces B As G を平坦に弱々しく弾く学習者がいます。23小節目は、音楽的に説明をさせて頂くと、「オペラ歌手が泣き崩れて舞台に倒れてしまう」ようなイメージで良いのではないかと思います。決して平和なところではありませんし弱々しい部分ではありません。故に、非常に感情が激しく、急激にdiminuendoにしないようにすることが大切です。
さて、ここまでの小節で、メロディーラインをより独立して弾きやすくするために特殊な指番号をお教えします。必要に応じてお試し下さい。 3小節目2拍目メロディー Des →左手 5小節目1拍目メロディーF →右手 10小節目1拍目メロディーF→右手 11小節目1拍目メロディーF→右手 13小節目1拍目メロディーAs→右手 13小節目2拍目メロディーAsと伴奏Fes→右手1と2の指で 15小節目1拍目メロディーC→右手 15小節目2拍目メロディーCと伴奏As→右手の1と2の指で 16小節目1拍目メロディーEと伴奏G→右手で 19小節目1拍目メロディーCisと伴奏Gis→右手で 20小節目1拍目メロディーAisと伴奏Fisis→右手で 20小節目2拍目メロディーDesと伴奏As→右手で 21小節目も同様に 22小節目1拍目も同様に 24小節目より別世界に入るカデンツがあります。ソフトペダルを踏み、音質はとてもぼやけた、ハッキリしない音質で柔らかさの限りを尽くします。そしてよく誤解されがちなのでスピードの問題です。細かい音符を見ると速く弾かなければならない呪縛にかられますね。決してここは速く弾く必要はありません。極端に遅すぎても重たくなってしまいますが、技術的に無理の無い範囲内で優しく弾いて下さい。agitato的なカデンツにならないように、夢の世界に入ったように演奏します。
27小節目、H-durで主題が始まります。ここはpiu animato con passione と表示があります。しかし決して速すぎないように注意します。ゴールは36小節目です。ここへ徐々にクレシェンドで持って行くようにします。
37小節目に入りましたら、sempre stringendoと書かれています。しかしここでもあまり速くしすぎないようにします。41小節目以降はある程度安全なテンポで無ければ上手に弾くことはできません。ここで、37小節目以降を速くしてしまった学習者が、41小節目においてどのような事になるかをご紹介します。2つのケースがあります。1つは、41小節目の1拍目と2拍目、それぞれの表拍にある、オクターブのGis(右手)とE(左手)を弾いてから残りの5つの8分音符が詰まってしまうケースです。1拍目を弾き終えたはいいものの、2拍目のメロディーとバスはまた跳躍します。そのときに時間を食いすぎてしまい、食い過ぎた時間が8分音符5つに対してしわ寄せが来て、結果8分音符が必要以上に速く、詰まってしまうというケースです。
2つめは、8分音符を正確に弾き、メロディー音を外してしまうケースです。
どちらのケースもよくなく、要するに37小節目からは速くしすぎないことです。しかし例えそれに気をつけていたとしても、41小節目は大変難しいパッセージになります。ここは独自の跳躍の練習をしなければなりません。また、41小節目はセクションが始まったばかりですので、フォルテシモは控え、メゾピアノ辺りに留めておきます。なぜなら、目指すは50小節目、そしてさらに55小節目、そしてさらに59小節目とかなり大きくなっていきます。
60小節目に達したときに起こりうる不自然な事としては、59小節目があれほど大きいのにも関わらず、60小節目をppで弾いてしまう学習者がいます。60小節目はフォルテシモからスタートし徐々にディミニュエンドをかけます。急に音量を落とさないこと。人間の感情とはそう簡単に、瞬間的に変えられるものではありません。
そしてこの60小節目は本当に難しいです。ミスが起こるとするのであればこの小節は要注意です。多くの場合、左手の方が遅れてしまい、結果ズレが生じたり、流れが乱れたりします。ここの左手はフォルテシモで練習をしておかなければなりません。特に左手の4の指が関わるユニットには注意をします。
61小節目、Tempo I に戻ります。この部分、声部は4つあると仮定します。1つはメロディーライン、もう1つはバス、もう1つはアルペジオの声部、そしてもう1つはペアの和音です。これらの声部は独立を目指します。故に、異なった音質で演奏するように、また、バランスも考えます。
1番出さなければならないのはメロディーラインですので、このラインは太く、ハッキリと歌います。次にバスです。そしてppで弾いて欲しいのはアルペジオの伴奏形です。そして、ペアの和音は鐘の音や鈴の音が遠くから聞こえてくるように、これもpppで弾いて下さい。このペアの和音をフォルテで弾くと本当に品が無くなります。
77-80小節間は無伴奏の静かな部分ですが、ここのイマジネーションは自由です。オルゴールと例えも良いと思います。
多くの学習者が考えなければならないのは、81-83小節間です。5声で書いてありますね。勿論メロディーラインは一番上にあります。この線はよく聴かせるようにします。82小節目をご覧下さい。メロディーラインのすぐ下にあるFはEsで解決されます。ヘ音記号の1拍目、Asは次のGで解決されますので、2拍目を大きくしないようにします。
そして83小節目からのメロディーラインは、ト音記号、棒が下に伸びている、C H C Es Des C C になります。納得ですね。故に、85小節目を引くとき、右手下声部のCがメロディーラインとなり、これを最も大きく出し、一番上のAsはppで演奏します。