ピアノ・ソナタ第4番は、サンクト・ペテルブルク音楽院時代の未完成の習作《ピアノ・ソナタ第5番》と、同じく習作の《交響曲》の緩徐楽章を元にして作曲され、1917年に完成した。1917年はロシアにとって、第一次世界大戦の戦乱のさなかに第二次ロシア革命が勃発するという、大きな意味を持つ年となった。プロコフィエフの回想によると、彼もペトログラードに戦火が及ぶことを危惧し、郊外へと「疎開」しており、このピアノ・ソナタはその混乱のさなかに完成されたという。初演は1918年4月17日、作曲者本人により、革命直後のペトログラードで行われた。それは、この曲と同じく「古いノートから」構想を取った《ピアノ・ソナタ》第3番作品28の初演の2日後のことであった。
第1楽章:Allegro molto sostenuto、3/4拍子、ハ短調。
ソナタ形式。《ピアノ・ソナタ》第1番から第3番までのソナタ・アレグロ楽章に一貫して見られる壮麗さや力動性はあまり見られない。しかしそれに重厚さが取って代わり、全体として密度の高い音楽になっている。第一主題は低音域が支配的で重々しい雰囲気を湛えているのに対して、第二主題は装飾音を交えた幾分軽快な性格をもち、変ホ長調の結尾をもつものの、調性は不安定である。展開部では主題の諸動機が、対位法的に組み合わされ、濃密なクライマックスを形作る。再現部は再び平穏が回帰するが、コーダでは旋律が上行するにつれ音楽も盛り上がり、楽章は堂々と締めくくられる。
第2楽章:Andante assai、4/4拍子、ニ短調。
この緩徐楽章はもともと、音楽院時代の1908年の冬に、友人ミャスコーフスキイと意見交換しながら書いた交響曲の中から、アンダンテを転用したものである。また、この楽章のみ、1934年に管弦楽に再編曲され、作品29bisの番号が付けられている。
A-B-A’の三部形式。A、A’では、アーチ状の旋律を持つ主題が、伴奏によって性格を巧みに変化させつつ繰り返され、Bは叙情的な中間部分を成している。
第3楽章:Allegro con brio, ma non leggiero
ロンド楽章。左手のアルペジオに乗せて右手が駆けまわる第一主題に、ハイドンにも似たリズムをもちながら、プロコフィエフ流の旋律・和声をもつ第二主題が続き、それらに優しげな主題が対置されている。どの主題も長調であり、前二楽章の短調の雰囲気を拭い去る、快活で喜ばしい楽章となっている。