バッハ :フーガ イ短調 BWV 959
Bach, Johann Sebastian:Fuge a-moll BWV 959
執筆者 : 朝山 奈津子 (358文字)
これがバッハの作ではあり得ないことは音楽内容から明らかである。しかし、この作品を音楽的に「拙い」と断定するのは、必ずしも正しくない。〈フーガ〉としてみれば確かに対位法的展開はおろか、声部書法もままならないようであるし、ポリフォニーとは相容れないような三和音の連続や模続進行などを多用する。そもそも、主題からして対位法的展開に向いているとは言い難い。
しかし、フーガ主題が率いる各セクションのまとまりは明確であり、結部で次の主題の入りを準備する。その和声進行や音域変化の緊張感はドラマティックですらある。この作品はフーガというよりはむしろ、フーガ風書法を用いた小品、というべきであろうし、そのようにみれば、各部であっさりと使い捨てされる音型は――展開が足りないのではなく――むしろ創造力に富んでいるということもできよう。