後代の資料のみによる伝承と、やや拙い音楽内容から、疑作とされている。
主題は同音反復とテンポの違う3つの動機を含む。こうした主題は、聴き手にとっては逃すことのない判りやすいもの、作曲家にとっては多声部との組み合わせが容易で扱いやすいものとして、古いフーガの教程が理想的主題と教える種類のものである。しかし、この作品全体の響きは古風と言うよりはむしろ、ヘンデルのような明るい柔軟性をも備えて、バッハよりやや後の時代の音楽を思わせる。また、声部書法が厳格に守られず、4つめの声部が処々に現れては消えてしまう。さらに、バッハの円熟期のフーガに必ず現れる中間の完全終止は、この曲では全体の5分の4を過ぎたところでようやく発生する。しかもG-Durという遠隔の調であるので、残り12小節で主調へとうまくまとめるには、やや展開を急がねばならなくなった。
バッハの他の作品と比べてみると、模続進行や平進行、単純な反復が目立つ。真の作者は明らかでないが、おそらくそれはJ. S. バッハではない。とはいえ、ここにはバッハのあまりに精緻なフーガ作品にないのびやかさと、氾濫する常套句ゆえの安心感とがある。演奏技術をそれほど要求しないので、フーガの練習用としても親しみやすい作品である。