1883年に作曲され、同年にアメル社から出版された。この年は、フォーレが彫刻家の娘、マリー・フルミエと結婚した年でもあり、初期の数多くのピアノ作品が作曲されている。
アレグロのヘ短調のこの即興曲は、3部形式の後に、再び中間部の要素が扱われ、そこにコーダが続いて曲を閉じる形がとられている。主要主題は、タランテラのような活き活きとしたリズムで書かれている。この部分では、曲線を描きながら上昇・下降するメロディーが印象的である。一方、中間部では、メロディーがより長い音価をもつようになり、美しいラインを描く。
この作品では、中間部で、メロディーがゆったりと歌い上げる曲想に変化した際にも、左手がショパンのように広い音域を奏する8分音符で伴うため、作品全体を通して8分音符の音価が刻み続けられる。このように、維持される音価と、その上で部分ごとに対比を成すメロディーという手法が、演奏に際して5分を要さないこの即興曲に奥ゆかしさをもたらしていると言える。