三部形式でまとめられることの多いフォーレのピアノ小品の中で第12番はやや異なる構成を持っている。第43小節でTempo Iによる冒頭主題の回帰は見られるものの、楽曲は収束することなく、第76小節(Allegro ma non troppo)と第91小節(Più mosso)でのテンポ指示によってどんどん加速しながら最後まで進んで行く。したがって、ここでは主題が回帰する第43小節からを作品の第2部とみなして、A(第1-42小節)-A’(第43-90小節)-Coda(第91-107小節)という二部形式で捉えてみたい。
主題はホ短調とホ長調の間で揺れ動く。この長調と短調の交替は第3音(ト音と嬰ト音)の扱いから生み出されるもので、フォーレにとっての重要な表現方法の一つである。静寂さとやや陰鬱な雰囲気を伴っていた主題は、第5、第10小節などに見られる4連符による旋律のヘミオラの効果によって、楽曲に前進的な流れが与えられる。このようなリズム技法は、フォーレの舟歌でも躍動感を出す手段として用いられている。セクションAの後半(第21小節以降)では内声が細分化し、第2部(セクションA’)へ向かって盛り上がりを築く。セクションA’も、セクションA同様に後半(第61小節)から音が細分化され、さらに第76小節以降はテンポも速くなる。そしてR. オーリッジが「ブラームス的」(*1) と呼んだ力強いコーダのパッセージ(第91小節から)でクライマックスを迎える。
R.テイトはこの第12番について「舟歌とノクターンの概念、すなわち夜と流れる水のイメージを同時的に融合した、フォーレの中でもっとも印象主義的な作品の一つだ」 (*2) と述べているが、確かに、静かで重々しい主題と途中で織り込まれるヘミオラのリズム技法による構成には、ノクターンと舟歌の統合を見ることができる。
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1. Robert ORLEDGE, Gabriel Fauré, London, Eulenburg, 1979, p. 164.
2. Robin TAIT, The Musical Language of Gabriel Fauré, Ph. D. Thesis, University of St-Andrews, 1984 : New York, Garland, 1989, p. 285.