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エルガー :グリフィネスク

Elgar, Edward:Griffineque

作品概要

楽曲ID:15436
作曲年:1884年 
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:種々の作品
総演奏時間:0分30秒
著作権:パブリック・ドメイン

解説 (1)

執筆者 : 小林 由希絵 (1619文字)

更新日:2018年3月12日
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エルガーが27歳であった1884年に作曲。 当時のエルガーは〈エニグマ変奏曲〉や〈威風堂々〉といった作品で作曲家として成功する前の下積み生活を送っており、両親の営む楽器と楽譜を扱うお店を手伝う傍ら、ピアノとヴァイオリンを教えることで生計を立てていた。

曲名の〈グリフィネスク〉とは「グリフィンのように」という意味。「グリフィン」とは、ギリシャ神話など古くから多くの物語に登場するライオンの体に鷲の頭と翼を持った伝説上の生物であるが、エルガーのピアノの生徒の名前がフランク・グリフィンであったことから、「グリフィン」の名前になぞらえて命名されている。

〈エニグマ変奏曲〉でも「ニムロッド」や「ドラベッラ」など友人・知人たちの名前をもじった愛称が出てくることからも分かるように、エルガーは言葉遊びが好きな人だったようである。 それでは、曲について詳しく見ていこう。

Allegro,Sehr lebhaft、8分の3拍子、ト長調。 全24小節の小さな愛らしい曲で、A-B-A'の三部形式。ピアノの生徒のレッスンのために書かれた曲とあって、比較的弾きやすい内容になっている。

練習の目的や習得したいテクニックが楽譜に明確に表われており、右手は6度ないし5度の跳躍を伴う分散和音、左手は10度など1オクターブ以上音の離れた跳躍が課題となっている。

イタリア語の速度記号の隣に、「Sehr lebhaft(非常に元気よく)」というドイツ語の楽語も加え、ピアノのテクニックの向上だけでなく、音楽的教養を養えるようにと配慮したり、スラーの表記の下にさらに「legato」と書き込むなど、生徒たちへのエルガーの繊細な心配りが楽譜からみてとれ、エルガーの生徒想いの優しいピアノ教師としての一面が垣間みれる。

Aはト長調ではじまり、つづく9小節目からのBはロ短調や嬰ヘ短調など細かな転調を経て、再びフォルテでAの主題が再現され、最後は徐々にディミヌエンドしていき、静かに終わる。

この曲を演奏するには、右手も左手も速いテンポでの跳躍が求められ、ピアノ初心者にとっては難易度は高めであったであろう。しかしながら、両手がピアノの鍵盤の上を縦横無尽に駆け抜けてゆく様は、タイトルの示す通り、まるで翼をはためかせて飛んでゆく「グリフィンのよう」であり、単にテクニックを習得する練習曲としてだけでなく、音楽としても弾いていて楽しめるようなピアノ作品に仕上がっている。

エルガーはピアノ曲の作曲に関して消極的であったと言われる。事実、エルガーのピアノ作品は〈愛の挨拶〉や〈ローズマリー〉、〈グリフィネスク〉、〈ソナチネ〉といったピアノの生徒のためにピアノ曲を書いていた下積み時代と、最愛の妻・アリスを亡くし創作意欲を失った晩年に集中しており、エルガーの絶頂期であった1890年後半から1920年においては、〈エニグマ変奏曲〉や〈威風堂々〉、オラトリオ〈使徒たち〉や〈神の国〉など大曲を書く合間に〈ムーア風セレナーデ〉や〈コンストラスツ〉、〈五月の歌〉、〈スミュルナにて〉など小品が作曲されるに留まっている。

その理由としては、ピアノよりもオーケストラや合唱などの大きな編成の作品の方がエルガーの作曲家としての本領を発揮することができたこと、19世紀のイギリスで起きたオラトリオなどの大規模な合唱音楽の大流行(イギリスでのオラトリオの人気は、イタリアにおけるオペラに匹敵した)や、当時のイギリス社会に置けるピアノの地位(ピアノは上流階級のもであり、エルガーのような中産階級以下のものではなかった)、エルガーのドイツの交響曲への強い憧れなどが挙げられる。

決してエルガーのピアノ作品は多いとはいえないながらも、その大半を占める下積み時代に書き上げたピアノの生徒たちのためのピアノ作品は、技巧的な作品ではないものの、ピアノ練習者にとって親しみやすく、かつ音楽的にも優れた愛らしい作品ばかりである。

執筆者: 小林 由希絵
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