作品概要
解説 (1)
解説 : 西原 昌樹
(1339 文字)
更新日:2025年10月16日
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解説 : 西原 昌樹 (1339 文字)
初期の意欲作。出版譜や作品カタログに《8つの前奏曲》(Huit Préludes)との表示はなく、後年成立した《12の前奏曲》(Douze Préludes)と区別するための便宜上の呼称である。正式には《2巻よりなる前奏曲集》(Préludes en Deux Livres)という。第1巻(Livre I)全5曲、第2巻(Livre II)全3曲、計8曲よりなる。両巻は独立し、相互に関連性を有しない。第1巻は作曲家ジャン・ユレ(Jean Huré)への献呈。多層的な構造と重厚なテクスチャーによる壮大な曲想が目立ち、全体にメカニックなヴィルトゥオジティの拡張を追求している観がある。大掛かりな技巧以外にも、あらゆる種類の難所が頻出する。繊細な装飾音の処理の難しさはその一例。一般的にミゴの装飾音は原則として主音の前に入れず、必ず主音と同時に奏するべきものとされるところ、本作では主音自体に複雑な動きが付随し、そこにさらに同拍で装飾音を重ねるのは至難の業。第1曲 Avec légèreté et souplesse 4/4、第2曲 Avec grandeur et puissance 3/4、第3曲 Avec émotion et tendresse 2/4、第4曲 Lent et calme 4/2、第5曲 Allègre et rythmé 4/4。1926年4月23日、パリ音楽院講堂にてポール・マクール(Paul McCool)が第3曲と第5曲を初演した。
第2巻はマルグリット・ロン(Madame M. Long de Marliave)への献呈。実際にロンが2曲を抜粋して1927年4月30日、サルガヴォーにおける国民音楽協会公演にて初演した。ロンが弟子筋に任せず自ら手がけた、ラヴェルやミヨー以外の現役作曲家の新作初演の記録として興味深い。第2巻は1923年の《リュート奏者デュフォーの墓》に続く、バロックのリュート音楽へのトリビュートである。副題は「フランスのリュートの巨匠たち―ピネル、シャンシー、メッサンジョーを讃える音による3つの花飾り」(Trois Guirlandes sonores en l'honneur de Pinel, Chancy et Mésangeau, maître-luthistes français)。前作「デュフォー」よりも音数が増え、技術的な要求がさらに高くなっている。第1曲 Un peu lent 4/4、第2曲 La noire = 60 environ 3/4、第3曲 Rythmé 5/4。リュートあるいはリューティストにインスパイアされた創作の対象はこの後、ギター曲やハープ曲へと向かう。1953年にはハープ独奏曲《リュート風ソナタ》(Sonate luthée)を発表した。また、Guirlande あるいは Guirlande sonore のタイトルは後年別の作品にも使っている。