作曲者フランツ・ベーアはドイツ、ロマン派の作曲家ではあるが、スペインを題材とした作品は複数存在している。
二部形式
序奏(1から2小節)
A [a (3から10小節)+a1 (11から18小節)]
B [b(19から26小節)+b1(27から34小節)]
全体の流れとしては、大楽節Aにおいて明るく安定感の性質だが、大楽節Bに移ると音域が上行していき、次第に高揚した雰囲気となる。27小節以降b1楽節で最高潮を迎えて終結となる。こうした高揚感が表現できるかどうかが演奏の鍵ではあるが、子供のための楽曲であることから全体を通して音域にあまり変化がないことが返って表情の変化を求めることが難しくなる。一般的にピアノに限らず多くの楽器は音域によって音色が変化することからそうした音域の変化や異なる音域の組み合わせによって表現の変化を促すことは作曲技法においては常套手段であるからだ。
主題は3から6小節。4小節目1拍にスタッカート、5小節は二つの八分音符にアクセントが付いていて、リズムに独特の性格が感じられる。前述の、明るい雰囲気や次第に高揚していく流れとともにこうした主題のモティーフもスペインらしさを表現しているのだろう。
ピアノ楽曲においては、例えば3小節目における同音反復のようなニュアンスはしばしば声楽的要素が考えられる。例えば、ブルグミュラー18の練習曲よりゴンドラの船頭歌の主題の冒頭、ショパンのノクターンでも度々見られる旋律線における同音反復は声楽的表現である。本作品は確かにそれらと比べるとより活発な雰囲気ではあるが、そうした声楽的要素を含んでいることを考えて、リズムをやや強調することで、その主題の特徴を表現できるものだと考える。ただし、楽節の規模は小規模なのでそれに見合った規模での表現、あまり大袈裟な表現をするとバランスを崩して返って不自然となるので気をつけたい。