モンポウは、バルセロナで生まれ育った。1911年、パリでピアノと和声、作曲を学び、再びバルセロナに戻った。1914年に第一次世界大戦がはじまったが、兵役を免れたモンポウは、6年間スペインで過ごすことになった。その間、1916年から1917年にかけて作曲されたのが、この《郊外(町はずれ)》である。全5曲で、それぞれバルセロナ郊外の雰囲気が描かれており、フランス人である母に捧げられた。標準演奏時間は約14分。マニュエル・ローザンタールによる管弦楽編曲もある。
1.道、ギタリストと老いぼれ馬:調号、小節線はかかれていない。4分の4拍子からはじまる。反復する16分音符の上に、開けた音程で旋律が重ねられる冒頭は、明るい光に満ちている。つづいて8分の3拍子、バルセロナの郊外でギタリストが耳慣れた舞曲を穏やかに奏でる。終わりにさしかかった音楽は徐々に静まり、老いぼれた馬が装飾音をもって描写されている。最後はppで消えるように曲をとじる。
2.ジプシー女I:4分の3拍子。モンポウの言によれば、ここに登場するジプシーは、細くて繊細なスペインの女である。暗く陰のある5度の和音の響きの中で、歌われていく旋律もどこか孤独を感じさせるような寂しさがある(トレ・プレンティフ)。対照的に激しく奏されるパッセージは、感情的でありながらも繊細に揺れ動く。
3.ジプシー女II:8分の6拍子。「そわそわしたリズムで」。小節線がなく、スラーも短いが、旋律の大きなまとまりを感じて推進力、躍動感のある演奏をこころがけたい。中間部でみられる歌の節回しの中に、ジプシー女のもつ艶めきが表れているようだ。
4.盲目の少女:変ト長調、4分の2拍子。ペニブルモン(やっとのことで)。延々とユニゾンで奏されていく旋律をきいていると、暗闇の中を歩く少女の心細さが伝わってくるようだ。左右の音が完全に重なるように、神経を研ぎ澄ませて奏する。調号がなくなったところで、淡く暖かい光を帯びた和音で奏される旋律が美しく響く。
5.アリストンの男:モンポウがガリバルディアーノと呼んでいた乞食楽師が手回しオルガンを演奏している様子が描かれている。冒頭から空虚な響きをもつ音程が印象的。つづく旋律はリズミカルである。緩急の変化があったり、音楽が急に遮られて肩透かしをくらったりと、ユーモアあふれる一曲である。