1955年、間宮芳生は、彼が語るところによると、日本の民謡の調査と、歌とピアノのため の日本民謡集の創作を始めた。民謡集のうちの第1集4曲はその年に作曲され、同年10月に 初演を迎えている。
ピアノ・ソナタ第1番は、間宮がまさに日本の民謡研究に本格的に取り組み始めた1955年の秋に作曲され、同年12月19日に田村宏によって「山羊の会」第3回演奏会で初演された。作曲者本人が語るに、本作を手掛けるうえで、第2楽章の〈メロディ〉が民謡的であるほかに は、意図的に民謡的に発想しようとしたわけではないという。しかし、民謡分析によって抽出された素材を循環主題として、音程の拡大、縮 小、反行、逆行、結合などで多声音楽を作り出した。初演時にはプレリュード、スケルツォ、メロディ、カノン、コラール、フーガ、フィナー レの全7楽章で演奏されたが、後に、スケル ツォが破棄されており、6楽章構成をとっている。なお、間宮本人によれば、初演後間もなくして自筆譜が行方不明となっていたらしい。そ の後30年近くたってから作曲家の友人の家族が、彼の遺品の中に自筆譜を見つけ、1989年にようやく出版されることとなった。