リュセット・デカーヴ(Lucette Descaves)監修の初中級の学習者向きの曲集「レ・コンタンポラン」(Les Contemporaines 現代の作曲家たち/全4巻)の第1巻所収。デカーヴは特に現代曲を得意としたピアニストであったが、教育者としての評価も高く、パリ音楽院ピアノ科の彼女のクラスは多くの俊英を輩出したことで知られる。こうした意欲的な出版企画も、デカーヴの広い人脈と卓越した指導力により実現したものといえよう。フランスのこの種の曲集として、日本ではルモワンヌ社の「子どもの庭」(Jardin d’Enfants)や「カイエ・ド・ルモワンヌ」(Cahier de Lemoine)などが普及しているが、全4巻で60余名もの第一線の現代作曲家の質の高い作品が集められた本曲集の教育的な実用性、芸術的な価値の高さにあらためて着目したい。
ミヨーの本作品は曲集への書き下ろしで、1950年2月に作曲された。「ワルツの動きで」(Mouvement de Valse)と指定された1ページの小品で、4分の3拍子、開始はヘ長調、終止はハ長調、ABAのシンプルな三部形式をとる。調性的であるが、複調を暗示するような対位法の処理もみられ、小粒で平易な中にも独特の味わいがある。初級者の教材としてはもとより、中上級者の初見視奏曲としても有用である。ダニエル=ルシュール(Daniel-Lesur)は曲集の序文の中で、本作品について「ミヨーは、宗教的な大きなフレスコ画を描くことをいっとき休み、魅力的なワルツを書いた」と紹介している。円熟期のミヨーが大規模な楽曲を精力的に手がけていたことを踏まえた発言であろう。