「molto espress.e delicatissimo」と書かれた非常に繊細な冒頭のフレーズは、意図的に意志の力で繊細に表現しようとするのではなく、まるで呟きが漏れ出すように、演奏者の体から発せられるようにすると、説得力が出るのではないでしょうか。
繊細な静的なシーンは16小節で閉じられ、17小節目からの「poco furioso」、19小節目の「furioso」(=熱狂的な)の動的なシーンに移ります。そして、23小節目に再び現れる冒頭のモチーフは、影を潜めるかのようにppで音域も低くなり、次に襲ってくるクライマックスのappassionato(=情熱的に)を準備します。25小節目からのappassionatoは、26小節のgrandioso(=壮大に)を経過し、27小節でエクスタシーに達します。
その後は、再び静けさが戻ってきます。piangente(=悲しげに)と書かれた29小節目からのメゾスタッカートは、ぽつぽつと落ちる涙のようでもあり、とぼとぼとつま先を見ながら孤独に歩くような寂しさも感じられるかもしれません。そして、曲の末尾に冒頭のモチーフが再び登場し、静かに曲は閉じられます。モチーフは、各演奏者が経験したこの曲の物語(ポエム)を最後に語る言葉として心に馴染むように演奏されるのが良いと思います。