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トゥリーナ :ジプシー舞曲集 第1集 Op.55

Turina, Joaquin:Danzas gitanas I Op.55

作品概要

作曲年:1930年 
出版年:1930年 
初出版社:Rouart-Lerolle
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:曲集・小品集
総演奏時間:13分00秒

解説 (1)

総説 : 小林 由希絵 (3768文字)

更新日:2018年6月18日
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 近代スペインを代表する作曲家ホアキン・トゥリーナが作曲した舞曲集。

1929年に2曲が作曲され、翌年の1930年に残りの3曲が完成し、全5曲の舞曲集として発表された。

 トゥリーナがこの曲集の作曲のために筆を執った1929年というのは、トゥリーナがマドリード国立音楽院の作曲科の教授として教え始めた年である。この曲集は、トゥリーナと同じマドリード王立音楽院でピアノを教えていたピアニストのホセ・クビレスに献呈され、1932年に初演演奏が行なわれている。

 

 トゥリーナは、1905年から第一次世界大戦が勃発する1914年までの約10年の間、フランスのパリへ留学し、ヴァン・サン・ダンディの元、スコラ・カントゥルムで、当時のクラシック音楽の最先端の音楽技法を学んでいる。1926年に作曲され、国民音楽賞を受賞したことでトゥリーナの名前を一躍有名にした出世作〈ピアノ三重奏曲〉第1番Op.35をはじめとして、比較的初期の作品においては、パリ留学中に学んだ新古典主義など20世紀初頭の新しい作曲技法を取り入れた作品を残しているが、この曲集においては、新古典主義などの難解な作風はあえて避け、スペインらしい民族主義的な手法で書いている。

このようなトゥリーナの音楽的な方向転換の背景には、スペイン国民楽派を代表する作曲家イサーク・アルベニスの存在が大きい。

 トゥリーナがパリに留学していた当時、アルベニスはキャリアの絶頂にあり、スペイン国民楽派を牽引する大作曲家であった。そんな作曲家として脂の乗り切ったアルベニスは、同郷の後輩であるトゥリーナに、「自分の故郷の音楽に基づいた音楽作品を書くべきであり、それがセビーリャ人としての務めだ」とアドバイスしたのだという。この言葉がきっかけとなり、トゥリーナの作風は、徐々にスペインらしい作風へと変化していったのである。

 

 曲のタイトルにある「ジプシー」とは、15世紀に北インドからヨーロッパに流入してきた音楽や芸能などで知られる民族のこと。「ジプシー」という名称は差別的な意味合いを含んでいるため、近年では「ロマ」や「ロム」などと呼ばれている。

一口に「ロマ」(ジプシー)と言っても、ヨーロッパ中に住むロマ(ジプシー)の音楽が全て共通しているわけではなく、それぞれの地域において環境に適応しながら、独自の音楽を形成していった。

スペインのロマ(ジプシー)音楽としては、特にフラメンコが有名であり、この舞曲集には数多くのフラメンコ的なリズムや旋律が作品の題材として取り上げられている。

 

 では、各楽曲について詳しくみていくことにしよう。

 

◯第1曲「サンブラ」…Adagio、4分の2拍子。

 「サンブラ」(Zambra)とは、グラナダ発祥の2拍子系のフラメンコの舞曲のひとつ。

サンブラという名前は、アラビア語で「笛」を意味する言葉の「Zamra」とも言われ、かつて8〜15世紀にイベリア半島がイスラム教国だった頃のアラビア文化の中の音楽と、ロマ(ジプシー)のフラメンコの音楽とが、互いに影響い合いながら融合した音楽だということがうかがい知れる。

 曲の冒頭は、フラメンコらしいアップテンポの踊りのリズムから始まるかと思いきや、Adagioの厳かな前奏から幕を開ける。ピアニッシモで、連続5度と連続8度の低音の和声が、スペインらしいエキゾチックな響きと神聖さを醸し出し、つづく高音の複雑な和声の響きが幻想的な世界へと我々を誘っていく。

 9小節目からはAllegro quasi andanteとなり、いよいよフラメンコらしい付点のリズムが登場し、聴く者の心を徐々に踊らせてゆく。途中、コブシを回して歌うような旋律や、たくさんの装飾を伴った16分音符のフレーズが登場し、アラビア風の薫りも曲の至るところに散りばめられている。

 曲が終わりに近づくにつれ、accelerandoを繰り返していき、コーダでAllegroまで到達すると、フォルテッシモで高らかに和音が打ち鳴らされ、印象的に幕を閉じる。

 

◯第2曲「誘惑の踊り」…Allegro moderato、4分の3拍子。

 イスラム教のコーランを思わせるような細かい装飾がほどこされた旋律が右手で奏でられ、5小節目にフェルマータで伸ばされたのち、神秘的な左手の和声の響きの中で、右手の旋律がどんどん変奏されながら繰り返されていく。

 中間部は、32小節目のpoco menoからの前半部分と、59小節目のa tempoからの後半部分とに分けられる。

 76小節目のTempo Iからは、冒頭の旋律が再現され、やがてコーダに入ると、優しい3拍子のワルツのリズムを刻みながらディクレッシェンドしていゆき、ピアニッシモで静かに曲を閉じる。

 

◯第3曲「儀式の踊り」…Andante、4分の4拍子。

 この曲集の中で最も短い曲で、全33小節から成る。

第2曲「誘惑の踊り」と同じく、メリスマ的装飾を伴った旋律が何度も繰り返された後、符点を伴うGuitarra(ギター)を思わせるフレーズと、Cante()のメロディが幾重にも渡って交互に登場する。曲の全体を幻想的な和声が包み込み、トゥリーナらしい絵画的で、優美かつノスタルジックな音楽が表現されている。

 トゥリーナは、この曲集のいずれの曲も一貫して調号を用いず、その都度、変化記号を用いて楽譜を書いている。特にこの曲は、5曲の中でも、とりわけ変化記号が多いため、読譜の際には注意が必要である。

 

◯第4曲「ヘネラリーフェ」…Molto vivo、8分の3拍子。

 曲のタイトルになっている「ヘネラリーフェ」とは、1230〜1492年までイベリア半島南部を統治していたイスラム王朝ナスル朝の王ムハンマド3世が、夏の間の別邸として、都グラナダのアルハンブラ宮殿の北側の太陽の丘に建てた離宮のこと。

ナスル朝は、キリスト教国によるレコンキスタ(再征服運動)によって滅ぼされる前のイベリア半島における最後のイスラム王朝であり、王宮の建築から、噴水など庭園の細部にいたるまで随所に渡って、イベリア半島で700年以上花開いたスペイン・イスラム文化の集大成が凝縮されている。

数あるイスラム建築の中でもヘネラリーフェ宮殿の美しさは特筆すべきものがあり、20世紀後半のスペインを代表する作曲家ホアキン・ロドリーゴが、この宮殿を題材として〈ヘネラリーフェのほとり〉というギター作品を書き残しているほどである。

 曲の冒頭から、16分音符の美しく流れるようなフレーズが幾重にもわたって奏でられてゆく。これはまるで、宮殿の庭園を彩る噴水の水がアーチ状の放物線を描きながら美しく流れてゆくようであり、ピアノならではの音楽表現だといえる。

 続いて、Polo Gitanoのパートに突入する。

Gitano(ヒターノ)」とはジプシー(ロマ)をさし、「Polo(ポロ)」とは、古くからあるフラメンコのリズムのひとつで、4分の3拍子や8分の6拍子などの3拍子系の速いテンポの舞曲をさす。

ポロは元々はアンダルシアの民謡であり、当初はファンダンゴ系のリズムで歌われていたが、時代と共にソレア系のリズムで歌われるようになった。民謡から派生した音楽だけあって、「ラメンテ」(ラテン語で「嘆き」を意味する「ラメント」から派生した言葉)と呼ばれる歌のパートが美しいのが特徴である。

ポロは、クラシック音楽の中でも度々取り扱われ、スペイン国民音楽の代表格であり、トゥリーナにも多大なる影響を与えたイサーク・アルベニスも組曲〈イベリア〉の中で「El Polo」という曲を書いている。

 この曲は、ロマ(ジプシー)の悲哀や嘆きのこもったラメントの歌声を思わせる旋律と、16分音符のフラメンコギターを彷彿とさせるパッセージ、そしてヘネラリーフェ宮殿の美しい噴水の水しぶきの音とが合わさりあい、イスラム時代の名残ののこる古都グラナダの離宮の姿を、ピアノで見事に描き出している。

◯第5曲「サクロ・モンテ」…Allegro moderato、4分の4拍子。

 曲のタイトルの「サクロ・モンテ」とは、第4番の題材にもなったヘネラリーフェ宮殿と同じイスラム時代の古都グラナダにある地区の名前で、アルハンブラの丘の向かいのアルバイシンの丘の中に位置する。ロマ(ジプシー)の居住区であり、街の通りには「タブラオ」と呼ばれるフラメンコのステージのある飲食店が軒を連ね、「フラメンコの聖地」として良く知られている。

第5曲「サクロ・モンテ」は、「フラメンコの聖地」の名を冠するにふさわしく、この曲の中で最もフラメンコらしさが全面に出た音楽となっている。

 まず冒頭から飛び出す印象的なリズムは、フラメンコのダイナミックな足技のひとつで、足を打ち鳴らしてリズムを刻む「エスコージャ」を表現している。

コブシを回しながら歌うフラメンコ特有の歌(カンテ)が16分音符の短いフレーズで至るところに現れ、スフォルツァンドとピアニッシモの対照的なダイナミクスと共に、どんどん音楽を盛り上げてゆく。

クライマックスでは、「タコネオ」と呼ばれる足の踵を華麗に打ち鳴らす足技が繰り出されるかのように、矢継ぎ早に細かいリズムが刻まれ、華々しく幕を閉じる。

執筆者: 小林 由希絵

楽章等 (5)

サンブラ Op.55-1

総演奏時間:3分30秒 

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魅惑の踊り Op.55-2

総演奏時間:3分00秒 

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儀式の踊り Op.55-3

総演奏時間:3分00秒 

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ヘネラリフェ Op.55-4

総演奏時間:1分30秒 

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サクロ・モンテ Op.55-5

総演奏時間:2分00秒 

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