ベートーヴェン :ピアノ・ソナタ 第29番「ハンマークラヴィーア」 第3楽章 Op.106

Beethoven, Ludwig van:Sonate für Klavier Nr.29 "Hammerklavier" 3.Satz Adagio sostenuto

作品概要

楽曲ID:30746
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:ソナタ
総演奏時間:18分00秒
著作権:パブリック・ドメイン
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解説 (1)

解説 : 岡田 安樹浩 (554文字)

更新日:2019年2月16日
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(第3楽章)嬰へ短調 8分の6拍子

鍵盤をスライドさせる楽器の構造的特性を最大限に利用したアダージョ楽章。嬰へ短調は主調の3度下の調性である変ト短調の異名同音であり、ここでも3度の関係による調性構築がみられる。

嬰へ短調の和声的な冒頭主題は、主題を構成する動機を特定し難く、安易な反復を避けて長い楽想を構築している。続いて断片的な和音とシンコペーション・リズムの内声の上に奏でられる第2の主題、次にニ長調に転じ、持続的に続く二音を装飾するような音型の上下に主音と属音の特徴的なリズム動機が反復される第3の主題があらわれる。

再び嬰へ短調にもどるが、冒頭の主題はその和声進行をバス声部に残すのみで、上声部は細かく装飾されており、これによって冒頭主題には、「動機的な特徴が無いことが特徴」であったことが理解されよう。第2の主題がニ長調、第3の主題は嬰ヘ長調で再現される。

第3の主題はさらにト長調であらわれ、冒頭主題の一部が回帰し、嬰ヘ長調に終止する。

この楽章をソナタ形式として論じているものもあるが、主題の動機展開的な技法が見出せない上、この楽章の幻想曲風の楽想は、この楽章の「形式を聴く」ことを拒んでいるようでもある。あえて形式的にとらえるとすれば、たとえば3つの主題をもつ大きな2部分形式のように考えられるだろう。

執筆者: 岡田 安樹浩