ベートーヴェン : ピアノ・ソナタ 第27番 第1楽章 Op.90
Beethoven, Ludwig van : Sonate für Klavier Nr.27 1.Satz Mit Lebhaftigkeit und durchaus mit Empfindung und Ausdruck
作品概要
解説 (2)
演奏のヒント : 大井 和郎
(628 文字)
更新日:2019年12月20日
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演奏のヒント : 大井 和郎 (628 文字)
典型的な失敗例を書いておきます。ご参考まで。
● 冒頭、アーフタクト、8分音符の後の8分休符を守って下さい。2小節目3拍目休符はありませんので、区別をつけます。冒頭はtutti、2小節目3拍目は例えば木管の小グループ等と考えます。
● 8小節目3拍目より、弦楽四重奏をイメージさせる、横に流れなければならない声部です。どこが和音の解決部分であるか考え、また弦楽器特有のアーティキュレーションも守ります。
● 7小節目、左手付点2分音符の和音は本当に難しく、これが雰囲気を壊しかねません。前の小節で、Eのオクターブを右手で弾いた後、17小節目の左手の和音の一番上の音である、Hを右手でとります。しかしながら21小節目はそれが出来ませんので、ここは分散させますが、本当に何気なくサラリと分散させて下さい。ここを硬く弾くのは御法度です。
● 24ー28小節間、4分音符はスタッカート気味でもそうでなくても構いませんが、2分音符の音価は守るようにします。
● 54小節目 書いてあるのはritardです。音楽をここで止めないようにします。
● 67小節目 フォルテの書いてある位置に注目します。左手の為のフォルテです。一方、右手は前の小節からの和音の解決の部分ですので、67小節目のHは前のAisよりも弱く弾きます。
● 109ー113小節間 2声の進行ですが、やはり弦をイメージします。この2声をどのくらい美しく弾けるかというのもこの楽章の課題です。1声ずつ練習してみましょう
解説 : 丸山 瑶子
(996 文字)
更新日:2021年2月14日
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解説 : 丸山 瑶子 (996 文字)
第1楽章 e-moll 3/4拍子 Mit Lebhaftigkeit und durchaus mit Empfindung und Ausdruck(活き活きと、全体を通して感情と表現を込めて)
提示部の繰り返しがないソナタ形式。限定的な素材で楽章が展開されていくエコノミカルな作曲法が取られている。
楽章冒頭の主題を構成するフレーズはおしなべて4小節の長さで、その規則性ゆえに内容も容易かといえば、全くそうではない。まず主題の小節構造は24小節(8+8+8)と、よくある8小節ないしその偶数倍は取らないし、第16小節と第24小節でフェルマータが来る点でも非シンメトリカルである。
また冒頭の和声進行は19世紀初頭の機能和声の慣例から外れており、低音が主調から導音disではなくd、続けてホ短調の音階第六音cへ…と下がっている。この旋律的短音階による下行にはむしろルネサンスやバロックの特徴が指摘されている。またこのとき導音に代わって現れるdはホ短調の平行調ト長調の属音で、これをきっかけにこのあとすぐさまト長調の和声進行が聞かれ、さらにロ短調に半終止する。その後ト長調の進行に戻るが調は明確にならず揺れ動く。主調ホ短調による終止は第24小節でようやく明確に現れるが、そこからはすぐに即興的身振りの移行部に入ってしまう。このように楽章冒頭で主調をあやふやにし、主調主和音の明示を遅らせるのは、《テンペスト》ソナタを含むop. 31を代表とする中期ソナタによくみられる手法である。
移行部に次いで第45小節からホ短調の属調ロ短調で副主題に入る。これらの部分で用いられるのは概ね既出の素材であり、ここからも本作品のエコノミカルな作曲法が確認できる。すなわち移行部、副主題両者の旋律の主要動機に用いられている短―長のリズムは楽章冒頭主題の動機と共通なのだ。加えて副主題前半の旋律の順次上行は楽章冒頭の上声の動きであり、副主題後半の小節線を跨いだ繋留による下行音形(第55小節〜)も冒頭主題後半で耳にしたものだ。
比較的短い展開部(第84〜143小節)は冒頭主題の前半と後半それぞれの旋律動機から構成される。そして第132小節から下行音階の音価が次第に大きくなり、このいわゆる「記譜されたリタルダンド」によって再現部が導かれる。定石通りの再現部ののち、約20小節の短いコーダが続いて静かに楽章が閉じられる。
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