第1楽章 ヘ短調 4分の4拍子
しばしば協奏曲風のソナタ形式として説明されるが、ソナタ形式を前半における調性的対立を後半において解決するという調性的な枠組みを前提として理解する以上、この楽章は2つの主題の提示とそれらの再現をもつ3部分形式、ないし2部分形式である。
まずオーケストラのみによって、ヘ短調と変イ長調による2つの主題提示が行われ、続いて独奏ピアノが、装飾を加えながら両主題を繰り返す。こうした構成法は、たしかに協奏曲風のソナタ形式に典型的なものである。そして推移部が拡大され、独奏ピアノの技巧的なパッセージの見せ場となる。
展開部風の第2部(第205小節~)は、ヘ短調主題の動機を主とした推移的な部分である。オーケストラがこの動機をゼクエンツ風に繰り返すなか、独奏ピアノが即興的なパッセージを展開する。オーケストラの総奏が楽章の頂点を築くと、すぐに沈静化して冒頭の主題がピアノで再現される(第268小節~)。この楽章を3部分形式とすするならば、ここからが第3部ということになる。
ヘ短調主題に続いて、すぐに変イ長調主題が調性を移すことなくあらわれる。そして、技巧的なパッセージによる推移部となり、冒頭主題が回帰するコーダをもって楽章が閉じられる。