1933年パリで作曲され、出版社デイスの社主レイモン・デイス(Raymond Deiss)へ献呈された。この数年後に社業不振に陥ったデイス社を、ミヨーの「スカラムーシュ」(1937年)の大ヒットが救ったエピソードはよく知られていよう。その後、戦渦を避けて渡米したミヨーに、デイスは米国の提携先出版社を紹介したり既存作品の再版権を与えるなどして恩義に報いた。フランスに残ったデイスは、激化するナチスの侵攻に抗すべくレジスタンス活動に身を投じたが捕えられ、1943年にケルンの収容所で斬首刑に処せられて非業の死を遂げた。デイス社は戦後サラベールに吸収され、シャンソンに強いフランス最大手の出版社の一角として隆盛期を迎えることとなる。
本作品がメンデルスゾーンへのオマージュであるとする評価が定着している。調性的で親しみやすく、明るくつつましい抒情が好もしい。音域のバランスが良く、美しい響きを充分に生かす演奏が望まれる。作曲者自身が本作品の初演を手がけている事実にも着目したい(1935年3月5日、 Radio Luxembourg にて放送初演)。「ピアノの巨匠でない作曲家」と自称していたミヨーは、管弦楽との協奏作品を含め自身で演奏する作品には、難易度を抑えながら演奏効果が上がる工夫を凝らしているため、ミヨーのピアノ曲を選ぶ際には本人が演奏したかどうかが一つの基準となり得る。中級程度(チェルニー30番から同40番前半)で弾ける本作品は、学習者にも演奏家にも好個のレパートリーとなろう。
本作品は抜粋せず、4曲でひとまとまりの作品として演奏したい。
第1曲 Modéré (中庸に)4分の2拍子、変ニ長調。
第2曲 Vif (速く)8分の6拍子、ト長調。
第3曲 Modéré (中庸に)4分の4拍子、ヘ長調。
第4曲 Modéré (中庸に)4分の4拍子、ト長調。