第20、21番に続いて、音楽家として売れに売れていた1785年の3つ目のピアノ協奏曲は、12月23日の待降節の予約演奏会のために書かれた。完成したのはその1週間前の12月16日である(このシーズンには他にも2回の演奏会があり、非常に多忙であったと思われるにもかかわらず!)。この作品の作曲の裏では、歌劇《フィガロの結婚》が書き始められていた。
前2作に比べれば知名度は落ちるものの、オペラ序曲のような祝祭的な華やかさと共に穏やかな落ち着きをもつ魅力的な作品である。当時まだ新しい楽器であったクラリネットがオーボエの代わりに導入され、管楽器の響きを新鮮にしている。独奏ピアノでは協奏曲らしい技巧的で華麗なパッセージが目立ち、また緩徐楽章での哀愁漂う旋律が美しく奏される。
両端楽章のモーツァルト自身によるカデンツァは残っていない。
第1楽章:アレグロ、変ホ長調、4/4拍子。協奏的ソナタ形式。管弦楽と独奏ピアノは対立するよりも一体となって華やかな楽章を仕立て上げている。
第2楽章:アンダンテ、ハ短調、3/8拍子。変奏形式。全体的に落ち着いた静的な雰囲気をもち、木管の効果的な使用により、牧歌的な印象を与える。独奏ピアノもそうした楽章の性格を壊すものではない。
第3楽章:アレグロ、変ホ長調、6/8拍子。ロンド形式。オペラの快活さやアリア的なやさしさを併せ持つ楽章。中間部にはアンダンテ・カンタービレが差し挟まれ、クラリネットが活躍する。ピアノ声部では主題旋律に加えて、高音のトリルや経過的パッセージといった装飾的な動きが目立つ。