1784年2月9日、弟子のプロイヤー嬢のために作曲されたことから、《プロイヤーのための協奏曲》第1番と呼ばれる(第2番は2ヶ月後に作曲された第17番K.453)。初演は当時モーツァルト夫妻が住んでいたトラットナーホーフ(出版業者トラットナーの建てた館)のカジノにおいて、おそらく3月17日に行われたと考えられる。これはモーツァルト主催の「トラットナー・カジノ演奏会」という予約演奏会(予約客を募ってから開催するもの)であり、父宛の書簡によれば、このときは174人もの予約客が集まったという。
当時のモーツァルトはヴィーンでの人気が高まっていたため、作曲や弟子のレッスン、演奏会といった多忙な日々を送っていた。当然、演奏活動が増えるにしたがって作品の数も膨大になる。そこで彼は自作品を整理する目的でこの年の2月から自作品目録を作成し始めた。その記念すべき第1号が、このピアノ協奏曲第14番なのである。
自作品目録には、作曲年月日、タイトル、楽器編成、冒頭主題が記されたのだが、このピアノ協奏曲に関しては、管楽器群(オーボエとホルン2本ずつ)の使用が任意である旨も書かれている。つまり、弦四部でも演奏できるよう仕上げられているということである。
第1楽章のカデンツァはモーツァルト自身によるものが残されている。
第1楽章:アレグロ・ヴィヴァーチェ、変ホ長調、3/4拍子。協奏的ソナタ形式。冒頭の第1主題のやや特異な進行をするユニゾンや、第2主題の素朴な旋律を支える低弦の刻みが決然とした印象を与える。管弦楽とピアノは比較的対等な立場をとり、いくらかシンフォニックな楽章になっている。
第2楽章:アンダンティーノ、変ロ長調、2/4拍子。三部形式。アリアのようになめらかな主題が美しい緩徐楽章。当時のフォルテピアノの響きを考えると、ピアノの左手パートが受け持つハープのようなアルペジオ伴奏が愛らしくきこえたことだろう。
第3楽章:アレグロ・マ・ノン・トロッポ、変ホ長調、2/2拍子。ロンド形式。スタッカートの活きた軽快なフィナーレ。アインガングの後は6/8拍子に変化し、さらに加速する。ピアノが大活躍しする楽章である。